第7章 兎は狼に勝てない( 錆兎 )
おんぶをしたまま歩いていれば、眠ってたのが密かに起きた錆兎は、そっと顔を上げる。
「 …青、牙…… 」
「 寝てていいぞ。流石に呑み過ぎだからな 」
肩で吐くなら下ろすが、そんな様子は無い為に気にせず歩けば、彼は僅かに首筋へと頭を摺り寄せてきた。
「 …昔も、俺が怪我をした時。おぶってくれたな… 」
「 そうだな、あの頃に比べたら重くなった 」
過去を愛しむ様に、ポツリポツリと呟く錆兎が、こうして素直に甘えてくる時は、二人っきりの時だと知っている。
義勇や、他の弟弟子の前では強くあろうとしてる為に弱音を見せることもない。
だが、一人の修行の時に身体を酷使して動けなくなった此奴を見つけて、鱗滝さんがいる小屋まで連れて帰ってやれば、小屋が見えるところで意地で下りた。
其れまで、こうしておんぶしてたのに…。
「 青牙は…どんどん、でかくなる…。広い、背中…してんな… 」
「 そりゃ、二歳はお兄ちゃんなんで 」
「 兄、か……。そうだな… 」
兄として見られてるか分からないが、其れでも頷いた彼にくつりと笑い、見えた宿に入る。
直ぐに部屋を教えて貰えば、そこへと向かって行く。
錆兎は時々、目を閉じて寝かけてるから、
酔った時は寝る子なんだと思うと、質がいいと思う。
此れが絡み酒とかになると面倒だからな…。
義勇共に良い子に育ったと実感して、中へと入り畳へと下ろす。
「 少し待ってろ。布団を敷く 」
「 ん…… 」
片腕を顔に当て、眠そうにしてる錆兎を横目に
押入れから二人分の布団を出し、さっさと並べてから敷けば、枕を錆兎の分だけ置く。
俺は枕はいらない派だから必要無い。
「 錆兎、移動するな 」
「 …一人で行ける 」
「 ふふっ、そうだな 」
布団に行けると言いながら、動かないから早々に横抱きして布団の方へと移動すれば、ちょっと不機嫌そうなこいつに笑いそうになった。
そのまま寝かせて、離れようとすれば錆兎の手は俺の隊服へと掴む。
「 ん? 」
「 俺は……。お前にとって魅力の無い…男だろうか 」
「 なにを言ってるんだ? 」
普通に此奴は顔が良いし、隠や隊士の子で憧れを抱いてる子もいるぐらい
魅力的な部分は幾らでもあると思っていれば、
彼の手は自らの腹から胸元へと触れる。
まるで、誘ってるように…
