第5章 狼は猪を育てる( 嘴平 )
〜 多神 視点 〜
あの日、伊之助はニ体の鬼を俺の手を借りることなく倒し切ったのを見て、此奴には生き残る術が備わってる事に気付く。
なら、俺が出来る事は刀の使い方と呼吸法だ。
゙ もっと強くなれるぞ ゙なんて言ったら、直ぐに真似て来た為に、後は任せることにした。
1年後
「 親分!見てみろ、俺様が捕って来てやったんだぜ! 」
「 ほぅ、上出来だな 」
「 だろ! 」
最初の頃はオオカミヤロウ、その次はツリ目、
そして力を認めてくれたようで、今の呼び方へとなった。
相変わらず、俺の名前は覚えてないようだが…
なんて呼ばれようがどうでもいい。
此奴がある程度の鬼と遭遇しても死ぬ事がない程度に、強く生きていればそれでいい。
自慢気に仕留めた雄鹿を連れてきたコイツは、その場で刀で捌いていく。
切れ味がいいとかで、隊士の刀をボロボロにした時は馬鹿か?と思ったが、それを使いこなせてるならいいだろ。
俺は、あくまでも伊之助の生き方を近くで傍観してるだけに過ぎない。
それなのに呼吸法も使えるようになり、空間識覚ってのも編み出してるから、相当素質がある。
いつも成長が楽しみで仕方ないと見ていれば、焚き火の火を強くし、木の棒に肉を刺しては焼き始めた。
「 これでちょっと焼けば… 」
被り物の中で、にしっと笑ったような伊之助を見てると顔を見たくなる。
そっと手を伸ばして、それを外せばコイツはこっちを振り返る。
散々俺が取る事で、取られる事には諦めるようだが其れでも目を向けてくる為に、被り物を横へと置けば、
1年前より太くなった手首を掴み引き寄せる。
「 な、なんだよ!? 」
「 なんとなく 」
「 なんとなくって…言葉になってねぇじゃねぇか 」
「 そうだな。じゃ…ハッキリ言おうか 」
抱き締めれば、服から伝わる程に速くなってる鼓動を感じればその伸びた髪に触れ、顔を耳へと寄せる。
流石、野生育ち。
自分の匂いを隠すのは上手く無臭に近い。
スンッと匂いを嗅げば、伊之助は胸元へと片手を当てる。
「 い、わなくていい…。気配で分かる… 」
「 そうか?なら、伊之助…、しよう 」
「 っ〜!やっぱり、そうなるのかよ! 」
「 嗚呼…当たり前だろう 」
番という訳ではないが、欲のある雄が他の雄を求めるのと同じだ。
