第5章 狼は猪を育てる( 嘴平 )
〜 伊之助 視点 〜
急に寝倉に来た連中に腹立って、負かしてから刀をぶん取ってやれば、次は犬耳と尻尾をつけたイヌヤロウが現れた。
コイツには気味悪いぐらいに゙ 殺意 ゙ってのが存在してなくて、俺を見るなり楽しそうにしてる気配にイラッとして勝負を挑めば、一度も刀を抜く事なく俺をボコスカ殴ったり蹴ってきた。
山にいる連中と力比べをして勝って来たはずなのに、
こんなにも呆気なく負けるなんて、ありえねぇ。
「 はっ!! 」
気絶してた事を思い出して目を見開き、起き上がれば夜はすっかり暗くなり、鼻につく焚き火の匂いに顔を向ければ、そこには座っているイヌヤロウがいた。
「 だー!!テメェはなんだよ!!つーか、他の連中はどうした!? 」
「 先に帰らせた。俺は多神 青牙 」
「 おおかみ?イヌじゃねぇのか!? 」
「 だから違うと言ってたろ 」
犬と思ってたのに違うって言われた事に驚く。
俺がまだ倒したことのねぇ獣だと思い、はっと立ち上がってから、横に置かれていた山の主の皮を持てば被り直す。
「 オオカミヤロウ!俺と勝負しろ 」
「 勝負か…。一つ、条件がある 」
「 なんだ? 」
勝負をする為の条件ってなんだ?と傾げれば、コイツは焚き火の周りに刺していた魚を取り、軽く息を吹きかけてから食った。
「 あつっ、はふっ……うまっ…… 」
「 っ…… 」
ぎゅるるっと鳴る腹にイラッとするが、俺は勝ってないからな。
それを奪おうとしても出来ないだろうって思ってみていれば、オオカミヤロウは条件を言った。
「 御前に、呼吸のコツと技を教えてやる。俺はこれ2年間。御前を育ててやるから。御前は2年後にある選抜試験で生き残って合格しろ 」
「 ……は? 」
「 御前が寝てる間に捕まえてきたんだ。倒せ 」
なにを言ってんのか、さっぱり分かんねぇが
コイツは魚の骨まで食い終えては、軽く指笛を鳴らせば左右から、嫌な気配をビンビン感じてくる。
現れたのは、目が正気じゃねぇ人間と違う気配をするものだ。
「 なんだ、これ… 」
「 コイツ等は鬼だ。獣の呼吸…捌ノ型。操笛(あやぶえ) 」
鬼と呼ばれる奴等を操ってんのか!?
何者だって思うより、強い奴と戦える事に、
楽しくて震えが上がるぜ!
「 いいぜ、殺ってやるよ!! 」