第5章 狼は猪を育てる( 嘴平 )
「 はっ!!こんなもんかよ!! 」
「( おや、タフだな? )」
案外、身体は丈夫なようで左右に頭を振ってから向かって来るイノシシの少年に、俺は密かに口角を上げる。
柱ではあるが、柱として表向きに公表して無い為に
継子を作る気は無かったのだが、この子は面白そうだと思う。
「 ご、フッ……! 」
「 折角の刀が只の重りになってる。棒じゃないんだ、全身の力を使え 」
「 っ、うるせぇ!!やってやりぁぁあ!! 」
敵を相手にして一歩も引く事なく、
それにて何度も蹴飛ばされたり、投げ飛ばされても、
向かって来る心の強さは感心する。
「 が、はっ!!! 」
「 出来てない。もう一度! 」
二本使いたければ教えてやる。
その為に、もっと全身を鍛えなければ駄目だ。
生半可に一本の刀だけを使える程度の筋肉では、
二本共、使い切れないまま宝の持ち腐れとなる。
「 は、はっ…ごほっ…つえぇ…… 」
フッと、少年はフラつけば被っていた猪の革は地面へと落ちた。
「 御前…… 」
「 なんだよ、俺の顔になんか文句でもあんのか 」
口から血を流し、闘志燃えこちらを見る少年の顔は、
青く染まった毛先、瞳は深い翡翠色に輝ぐ紅顔の美少年
゙と言っても過言ではないような見た目をしている。
それを見て、片手を顎に当て頭から爪先まで見詰めては告げてみた。
「 御前、名前は? 」
「 あ?俺は、嘴平伊之助だ! 」
「 そうか、伊之助。御前…俺の番になれ 」
「 番……?はぁぁあ!!?誰が、テメェのようなイヌヤロウと交尾しなきゃいけねぇんだ!!それに俺は雄だからな!雄!! 」
「 意味は理解してんだな。上出来 」
分かりやすく顔を真っ赤に染めたコイツは、腹が立ったのか散々ボロボロにされてるのに関わらず、向かって来れば、俺は日が暮れるまで遊んでやった。
「 っ、はぁ、はぁ…… 」
「 さて、そろそろ大人しくなっただろうか? 」
「 うえ、に…乗んじゃねぇ… 」
二本の刀は其々に飛んでいき、顔も身体もボロボロになった伊之助の背中に座っては、軽く脚を組んで笑みを向ける。
「 こうでもしなきゃ暴れるだろ?休憩しよう、伊之助 」
「 うっせ、イヌヤロウ… 」
負けん気があるのはいいことだが、口は慎もうな?