第4章 兄妹の絆( 冨岡 )
〜 冨岡 視点 〜
俺達が半日来るのが早ければ、御前の妹も家族も助かっていたかも知れない。
だが、失った者はもう戻っては来ないんだ…。
走った先には、鬼に襲われていた少年がいたが、
コイツは鬼になった妹を守ろうとした。
そして、妹もまた人間である弟を助けるような動作をし、俺に対する威嚇を見せた。
コイツ等は、もしかすると違うかも知れない…。
そう思い、助ける事にした。
横たわる兄と、鬼となった妹を見下げていれば聞こえて来る走る足音に、刀を抜く。
「 っ…… 」
「 義勇。何故、鬼を庇うんだ? 」
兄の前へと脚を出し、容赦無く向けられた刀を受け止めれば獣の瞳を光らせ、犬歯を見せる青牙の言葉に眉を寄せる。
庇う、とは違うな。
コイツは、俺が見てきた鬼とは違う為に、それがどの様な結果になるのか見届けたいだけだ。
青牙とは、同じ育手である鱗滝左近次の弟子であり、
彼は兄弟子となる。
俺と錆兎、真菰に血を吐くような修行をつけてくれた者であり、真菰は特に兄のように慕っている。
だが、そんな青牙にも譲れないものがある。
刃を弾けば、後ろへと下がった青牙は青緑(ろくしょう)色をした刀身の刃を俺へと向けて来た。
「 ……庇ってない 」
「 じゃ、そこを退け 」
「 退かない 」
「 ……は? 」
不機嫌なのは無理は無い。
俺よりずっと早くから鬼を倒し、鬼を嫌っている青牙からすれば、殺さない事には疑問でしか無いのだろう。
「 この鬼は違う。飢餓状態で有りながら兄を殺さず、俺に襲ってきた 」
「 襲われてんじゃないか 」
「 違う 」
「 いや、違わないだろう 」
襲う、と言う意味が違うとじっと見詰めていれば
青牙は剣を軽く振るい鞘へと戻した。
諦めた様子に疑問になるも、彼はフッと横へと溜息を吐く。
「 義勇の事だから、なにか考えがあるのだろう 」
「 ……ない 」
「 は? 」
「 俺は腹を切る 」
この鬼が誰かを食った場合、俺は腹を切る事になるだろう。
そうなる事を分かった上で、この兄妹にはなにか他とは違うものを感じる。
「 いや、待てよ?弟が腹を切るとか兄ちゃん嫌なんだけど?? 」
「 ……… 」
ジッとと見詰める俺に、青牙は髪を掻く。
「 あーもう、分かった! 」
何が分かったんだろうか…