第28章 年の瀬と新年
アシュリー家は忙しいようで、次に会えるのは年明けだそうです。あ、聖夜祭の後、気になります?
えぇ、御想像通りに生まれたての小鹿になりましたとも。シェラザード様は、16歳だもの。若いから仕方ないよね。うん、分かってる。
だから、こんな風にゆっくり出来る時には、読書して料理して温室で手入れして、土鍋でおでん作って・・・。豆腐が作れたから油揚げを作って、餅巾着に変身。
ぐつぐつ煮える具材を眺めながら、かたや七輪で蛤擬きを炙って・・・。ここで日本酒あれば最高かもしれませんが、生憎私は飲めませんしそもそも日本酒が存在しません。
パカッと口が開いた蛤擬きを小皿に取り分け、ふうふうと息を吹きかけては口に放り込む。貝のジューシーな旨味が口の中に広がり、もっと食べたいと胃袋が強請る。
ザビエルが作ってくれた風よけのおかげで、外だけどまだ温かい昼間だからかこうして楽しめている。
そう、七輪だけど、私用にもう一個追加。追加した方でおでんが大変いい匂いを漂わせている。土鍋は勿論、大鍋だ。
「フフ、美味しそうな匂いだな。」
食べようとした蛤擬きがポロリと小皿に落ちた。
「こ、公爵様。ごきげんよう。」
背後を見たけれど、シェラザード様の姿は無い。少しションボリしてしまうと、小さく笑う公爵様の声。
「先に私だけがお邪魔したんだ。シェラザードも、もう少しすれば来るよ。で、それは何だい?」
未来の義理のお父様と、サシでおでんを食べることに。メアリーが装ってくれて、興味深そうに餅巾着を食べた。猫舌ではないらしく、フッと頬を緩められ美味しそうに食べてくれた。
そして、メアリーが用意してくれたワインを飲んでいる。おでんにワイン。まぁ、いいか。だって、私は果実水だから。
「アメリア、シェラザードとは仲良くやっているか?」
「はい。優しくして下さいます。」
「そうか。」
公爵様は、七輪を眺めながらポツリと呟いた。
「どうか、息子を・・・。」
最後の言葉は聞き取れなかったけれど、それでも、シェラザード様を気遣う言葉だということは分かった。
「今年の春、久しぶりに息子の顔を見た時は驚愕したんだ。こんな空っぽの、人間ととても言えない人形のようになってしまった、心を何処かに失くしてきたそんな顔だった。」