第18章 公爵家の領地へご招待
ねぇ、料理人さん。どうして、ウチより大きな寸胴鍋で作ってるの?失敗するとか思わなかったの?初めて作るのだから、大きいお鍋でなくてもいいと思うのだけど。
待っている間、あまり見る機会がないキッチンだからキョロキョロと辺りを見回していた。
「どうかしたか?」
「シェラザード様、不躾なお願いなのですけど・・・食在庫見せて頂くことは可能ですか?」
「それくらいは構わない。私が案内しよう。」
キッチンの裏には食在庫が隣接していて、色んな食材が保管されていた。そして、瓶詰された香辛料が綺麗に並べられているのを見つけた。あ~、夢が広がる。
「ここの子になりたい。」
「ん?子ではないが、なるだろう?私の妻になるのだから。」
「えっ?あ、そ、そうですね。」
何か、恥ずかしいことを言ってしまった。
「明日は、二人で町に行こう。」
デートのお誘いだ。嬉しい。笑顔で頷いた。
で、公爵家の料理人さんたちの力作。牛丼が出来上がった。ワインを惜しげもなく使った牛丼は、魂が抜かれるかと思うほど美味しかった。
流石、公爵家の料理人、スペックが高い。そして、大量に作られた牛丼は、丼としてではないものの夕食として食べられることになった。
シェラザード様のお父上だけでなく、お母上もお替りをしてくれたことは嬉しかった。その牛丼だけど・・・他に誰かいたっけ?と思う程、あの寸胴鍋の中身が殆ど残らなかったことに料理人は喜びと、若干の残念な気持ちを醸し出していた。
その夜。
一列に並んだ料理人さんたちに、あの麺つゆを所望され軍隊かと思ったほどに揃ったお辞儀をされた。
それは、御領主にお伺いしてください。私には何の権力などありませんので。
毎日一緒にいると、距離感も近いことに何の違和感も持たなくなっていることが気にならなくなっている日々。
呑気な私に反して、色々と我慢満載なシェラザード様。
そう、私は安心してしまっていたんだ。
だって、一緒に睡眠を取るだけになっていたんだもの。ただ、それが爆発することになるのは、翌日だと言うことを私もシェラザード様も、まだこの時は知らない。