第16章 ベゴニア
『私もお風呂いってくるね』
「ん、いってらっしゃい」
パタパタとバスルームにかけて行った東堂を見送り、トサっとベッドに体を沈める。
「あー…俺今日大丈夫かな…」
数十分後、バスローブに身を包んだ彼女が戻ってきた。その手にはドライヤーが握られている。
『竜ちゃん髪の毛やってほしい』
「ん、ここ座って」
ベッドに座る俺の脚の間に座らせる。
昔より少し伸びた髪。
ダメージを知らない綺麗な髪。
『この指輪ホントに綺麗…』
「そんなに眺めてどーした?」
『この石…竜ちゃんの目の色みたいで綺麗』
「そ…そうか?」
『うん、綺麗。
私ね竜ちゃんの目好きだよ。』
実際、俺の瞳の色に似たものを選んだ。
少しでもそばにいたくて、触れていたくて。
くすみがかったパープルの石のリング。
俺の目を好きだと言って振り返った東堂と視線がぶつかる。
「…ん?」
『竜ちゃん今日はありがと。』
「急になんだよ、こんなんいつでも…」
『美味しいご飯も水族館もイルミネーションも。
プレゼントもこんなにたくさん…嬉しいの。』
「東堂?」
なんで泣きそうな顔してんだ…?
『…っお母さんたちがいたときはこうやって過ごしてたなって少し思い出しちゃって…毎年ご飯を食べに行って、行きたいところに出かけて、最後はホテルで過ごして…。』
「ごめ…俺そんなん気づかなくて…っ」
『えっ違うよ竜ちゃん…っ
違うの…すごく嬉しかったの。』
「無理して…ないか?」
『してないよ。ほんとに嬉しいの。お母さんたちと過ごした時間を忘れたくないから。竜ちゃんといると安心する…甘えたくなる。』
ほら、いつも私家では1人みたいなものだから
そう言って悲しそうに笑う東堂が消えてしまいそうで、気がついたら思い切り抱きしめていた。
「俺はずっと東堂のそばにいる。
たくさん甘やかしてやるから。」
『ふふ…っありがとう竜ちゃん。
ほんとに…ほんとに大好きだよ。』
「俺も東堂が大好きだよ。」
このまま時間が止まればいいのに。
今東堂の瞳には俺だけが映ってて、お互いがお互いを必要としてて…なぁ俺のモンになってよ…?