第1章 椿
「ヒルデ・・・?大丈夫だ。ただの任務で戦闘になるわけではない」
そこでハッとしたのか彼女が離れる。
「行ってくる」
彼女の頭にポンと手をのせる。
そしてエレカに乗り込み、ボルテールへと向かった。
白い服に着替えた彼が扉から出て行くのを見た。
まるで彼が最終決戦に行ったときのように。
思わず取り乱した。
彼といると調子が狂ってしまう。
「どうだったんだ?」
帰りの車で父が話しかける。
「わかりません・・。でも少しだけ可能性が見えてきました。」
「そうか、うまくやれよ。」
それ以上の会話はなかった。
後日、婚約をイザークに申し込まれた。
結婚の前段階として、お互いを知る期間を設けたい、とのことだ。
父の期待に応えたものの、気が重い。
「ああ、お前をジュール隊に入れといたぞ。」
「え??」
「聞こえなかったか、ジュール隊に入れたんだ。赤服にしといたぞ。」
「どうして!彼はそいういうことを嫌がります!!」
「なあに、あと一押しだろ。四六時中彼の側にいればその気になる。既成事実でも作ってこい。」
父親とは思えないことを言う。
「なんてこと・・・。」
彼はコネのようなものが大っ嫌いだ。
しかも赤服。
アカデミーで優秀な成績を収めたものだけが着れる色だ。
絶対に買収したと知れたら許さないだろう。
いや、すぐにバレて婚約解消されるのがおちだ。
ふと考えてしまった。
なんのために私は生きているのだろう。