第1章 椿
白々しい。
自分がつけた傷なのに。
ここまでくると申し訳なさが勝つ。
彼も困っているようだ。
「二人で話をさせてください・・・。」
イザークは静かに発言した。
「傷を見せて・・・。」
言われた通り長袖をめくる。
傷は思ったより深く、メディカルシート(傷口に貼るシート)を貼っても傷跡が見える場所もあった。
流石に自作自演というには傷が多すぎる。
「ごめんなさい・・・・。お父様は頑固な人ですから、あなたに責任を取ってもらえるまで変える気がないみたいで・・・。」
「大丈夫か?」
「え?」
「こういった経験はかなり心に傷が残る。」
『大丈夫か?初めてだったのだろう。この日のことはずっと忘れられないだろう。』
そういって初めて人を殺した私を抱きしめてくれた人を思い出した。
「おい!大丈夫か?」
気づかないうちに涙が溢れ出していた。
「ご、ごめんなさい。大丈夫、大丈夫ですから・・・。」
イザークが優しく抱きしめる。
「大丈夫だ。大丈夫・・・。」
止めたいと思うほど涙が溢れてくる。
悲しい、寂しい、苦しい。
ひとりにしないで。
ピピピと機械音がなる。
イザークが端末を取り出す。
「どうした?」
「非番のとこ悪いんだが、変な熱源反応を察知したから調査に出て欲しいとよ。お前がいないとどうにもできないからボルテールに戻ってこい。じゃあな。」
ディアッカからの通信は一方的に切られた。
こんなことをしている場合ではないと、イザークが立ち上がる。
「すまない」
イザークは自分の部屋に戻り急いで白服に着替える。
「どこに行くのイザーク?」
「ボルテールに戻ります!急な任務がはいりました!」
ヒルデも部屋から出てきた。
「では失礼します!」
そう玄関から勢いよく飛び出した。
「行かないで!!」
エレカに乗ろうとしたイザークは、背中に衝撃を受けた。
「ヒルデ?」
まず背後を取られたことに驚いた。
「行ってはダメ・・。おいて行かないで・・・。」
「しかし・・、仕事なんだ。」
正直めんどくさいと思った。
もし結婚したらこんな風に迫られるのだろうか。
しかし彼女の顔を見たら何も言えなくなってしまった。