第1章 椿
頰を叩く音が部屋に響く。
「なんだと!!?この役立たずが!!」
叩かれた衝撃で床に倒れた、ヒルデを足で思いっきり蹴り始める。
「くそっ!!」
頭をかきむしる父をまるで他人事のように眺める。
「いや、これは使えるぞ?」
急にこちらに向き直り、ニヤリといやらしい顔をする。
「イザーク・・・。」
「どうしました?母上?」
次の日はちょうど非番であったため、実家に帰り、本を読んでいた。
「話があるの、おりて来なさい。」
ただならぬ雰囲気を感じ、急いでリビングへ向かう。
「こっちよ」
しかしエザリアは客間の方にイザークを呼んだ。
「どういうことかね!!!!」
入るなり、怒鳴りつけられる。
ヒルデの父だ。
「見ろ!!君のせいで!!!!」
「お父様・・。イザーク様のせいではありません。私が一人で帰ると言ったのです・・。」
ヒルデの頰は腫れていた。
「君のせいでゴロツキに襲われたんだ!!手足もひどい怪我だ!それに!!!!」
「お父様!!!!!言わないで・・・。」
「君のせいで純潔を散らしたんだ!!どうしてくれる!!」
ヒルデはうなだれた。
泣いているのか。
だが、なぜか信じられなかった。
「犯人は・・?防犯カメラは?証拠は?」
「イザーク!!」
「君は娘を疑うのかね!!それに防犯カメラ!?襲われているところを見せろというのか!!」
「誠に痛ましいことではありますが、俺には関係ないことだ。」
なぜだがイライラして来て、思わず取り繕えなくなった。
「君のせいでうちの娘は傷物になったんだ!どう責任を取ってくれるんだ!!」
一気に冷めた。
ああ、結婚させたいのだと。
それに、今時結婚までに処女を守る女は少ない。
だがイザークの口からそれをいうことは許されない。
万が一この話が本当だった場合取り返しがつかない。
「ごめんなさい、イザーク様・・。私が悪いのです。怒らないでお父様。」
彼女は顔を覆い涙をこぼす。
エザリアは頭を抱えている。
疑っていないようだ。
どう収拾つけたらいい?
考えても答えは出ない。
「この服の下にもたくさん傷があるんだぞ!」
「お父様・・・!」