第1章 椿
「お慕いしております・・・。」
勇気を出して、といった風にゆっくり歩み寄りそっと胸にもたれかかられる。
「本当に俺が好きなのか?」
つい本心が漏れてしまった。
「はい。」
「どういった気持ちですか・・・。」
一瞬彼女の瞳が揺れたように感じた。
「そばにいたくて、離れたくないという気持ちです・・・。」
白服だけ目に入れば、まるで彼に抱かれているようだ。
「ずっと一緒にいたくて、あなたさえいれば何もいらないと思うくらい、大切で・・・、愛おしい・・・。」
きゅうと胸が締め付けられる。
ラウ・・・・。
そこ言葉に偽りは感じなくて、イザークはたじろぐ。
「しかし・・。私はあなたを幸せを約束することはできません。またいつ戦争が起きるかわかりませんし、命を落とすこともあります。」
ヒルデの肩が揺れた。
「一緒にいることが幸せなのです・・。幸せにして欲しいわけではありません。ただ、私の未来にあなたがいるということが幸せなのです・・・・」
「・・・・・。それでも、あなたの気持ちを受け入れることはできません。」
「どうしてもですか・・・。」
「はい・・・。」
胸からそっとヒルデをはがす。
今にも泣いてしまいそうな顔をしていた。
白服を固く握り締めていたせいで跡がついてしまった。。
「ご、ごめんなさい・・・。」
「アイロンをかければ元に戻りますから。」
彼女の手は震えていた。
イザークは彼女の心が揺れそうなことを自覚していた。
しかし、流されてはいけない。
これはきっと一時の迷いであるから。
「わかりました・・・。」
彼女が微笑んでみせたため、イザークがホッと胸をなでおろす。
「送ります。」
「いいえ、一人で帰ります・・・。」
「ですが、夜道は、」
「振られた相手に送られるなんて、私どうしていいかわかりません。」
からかうように彼女に言われてしまってはそれ以上は言えない。
「わかりました。」
できるだけ後味が悪くならないように別れようとイザークも微笑んだ。