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歩み出せるなら

第1章 椿


ちらりと、彼をみる。
どうやらこの話全く乗り気でないようだ。
少しでも隙を見せれば断わられてしまうだろう。
貸切は水族館の閉園まで。
後3時間もある。
どうにか彼に興味を持ってもらわなければ。

「あの・・。ザフトではどのようなことを?」

トンチンカンなことを聞いた。
しまったと思ったがもう遅い・・・。


やはりただの令嬢か。
ザフトは軍のようなものだ。
想像すれば何をしているかなどなんとなくわかるはずだろうに。

「その・・、今は隊長をしています」

よくわからない答えをした。

「隊長!!」

言葉を反復しただけだった。

「さ、先の大戦でも隊長を?」

そんなことを聞いてどうするのか。
それに、ジュール隊はかなり有名な隊だ。
世間知らずと思われてしまう。

「そうですね。」

なんてつまらない会話だろう。

「あ、次、ペンギンなんですって!せっかく貸切なんですから楽しみませんか?」

無理やり会話を捻じ曲げる。

「いいですね。」

イザークも同意する。




水族館を回りきる頃にはお互いげっそりしていた。

「もう直ぐ閉館ですね。」

地獄のような時間が終わったと心の中でガッツポーズする。

「はい・・。」

彼女がエスコートしていた手に少し力を入れる。

「あっ・・・。」

パッと手を離し、視線を落とす。

「ごめんなさい・・・・。なんだか夢のような時間で・・。離れてしまうのが怖くなってしまったんです・・・。」

どこからそんな少女漫画のようなセリフが出てくるのか。

「失礼ですが、この結婚はなしにしてください。あなたを傷つけることはわかっています。まだ、私はやりたいことがたくさんあります。まだ、結婚は考えられません。あなたが、ということではありません。」

まだ20だ。
焦る必要はない。

「今、結論を出すのはお早いのではないでしょうか?もっとお互いを知ってから答えを出しても良いのではないでしょうか・・・?」

目を潤ませ、こちらをまっすぐ見つめる。
そんな目で懇願されればだれだって心が揺れるだろう。
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