第1章 椿
午後から水族館を貸し切っていたらしい。
親の行動力にはいつも参ってしまう。
「行きましょうか。」
エレカから降りるため、手を差し出す。
「はい・・。」
すんだ声が小さく響く。
うつむきがちなところが初々しく可愛らしい。
と世間一般では思われるのだろう。
このお見合い、どうしたら破談にできるだろうか。
白いザフトの制服を見た瞬間、彼のことがフラッシュバックした。
私を愛してくれた人。
最初で最後の人。
しかし、ほおけているわけにはいかない。
だれもが好きそうな令嬢を演じる。
エザリアの反応は良かったが肝心のイザークは全く手応えがなくハラハラする。
しかし、この白服のせいで集中することができない。
彼はもっと背が高かった。
私は肩ぐらいの身長しかなくて、大きな胸に抱きしめられるのが好きだった。
彼の匂いが、声が、全て愛おしかった。
お互い沈黙のまま水槽を見つめる。
「疲れませんか?」
「え?」
「靴、ヒールが高いので。」
彼は手を取り、ベンチまでエスコートしてくれた。
「飲み物を買ってきます。」
そういうとヒルデの元から離れて行った。
自販機でコーヒーを買う。
沈黙が重すぎる。
緊張しているのか、全く彼女は話しかけてこない。
このままでは結婚させられてしまう。
「コーヒーです。」
「ありがとうございます。」
まるで大輪の花が花開くように眩しい笑顔であった。
もしかして本当に純粋な子なのだろうか。
「あの、あなたはこの結婚に賛成なんですか?いや、お互い初めて会うわけですし。驚いたりしないのかなって。」
「私は、この話を聞いた時、点にも昇るような気持ちでした。イザーク様は有名な方ですし、実は陰ながら好いておりました・・。」
また恥ずかしそうに目を伏せる。
本当に憧れの人と出会ったかのような反応だ。
「あの・・・。ごめんなさい、イザーク様からしたらいきなりでしたものね。嫌だわ・・・。お父様に憧れの人がいるってバレてたみたいで・・。それで、たまたま相性が良かったものですから・・・。」
こんな清楚な美少女であればドキドキすること間違いなしだ。
「そうでしたか・・・。」
いや、なんでどうしたんだ。
バカか俺は。