第1章 椿
「きたきた!遅いわよー!」
エザリアは上機嫌だ。
「・・・遅れました。イザーク・ジュールです。」
「ヘイス・ベイエルだ!いやいや、イザーク君!君のような息子を持つことができるのは果報者ですな!」
ガハハと大胆に笑う。
側に立っている女性はいかにもと行ったようなご令嬢だ。
白髪にバイオレットの瞳。
クリーム色のワンピースを着た美少女だ。
だが、コーディネータは基本的に美男美女が多い。
特に魅力は感じない。
「お前も挨拶しなさい。」
そう言われると、ヘイスの陰から一歩前に出て、少し恥ずかしそうに挨拶をする。
「ヒルデ・ベイエルと申します・・・。」
少しまつげを伏せ、ほんのり薔薇色に頰を染める。
イザークでなけれだれもが惚れていただろう。
「まぁ!そんなに緊張しなくていいのよ!」
母は上機嫌に彼女にハグをしに行く。
それも照れながら、ぎこちなく受け入れる。
嘘くさい。
まさに絵に描いた深窓の令嬢。
「さ、座りましょうか!」
デレデレしっぱなしのエザリアが仕切り始める。
趣味はピアノと読書。
ピアノ教室を開いているらしい。
休日は美術館やオペラ、バレエを観に行くらしい。
どこのお姫様だと言いたくなる。
今まで二度も大戦を経験しているはずなのに、毎日花畑で暮らしていたのだろうか。
フルコースが終わる。
「じゃ、この後は定番の、若い子たちで!」
エザリアは終始ヒルデの初々しさをめでていた。
彼女の父親は言葉の端々から意地汚さを感じた。
しかし、ヒルデに夢中なせいでそれらに疑問を持たなかったみたいだ。
あちらにはこの結婚をどうしても成功させたいという必死さがあった。
「しかし、私は仕事に戻らねばなりません。」
やんわりと断ってみる。
「あらー、さっきディアッカに尋ねといたら今日はいいって言ってたわよ?」
あいつ、楽しんでやがる。
こう言われては反論できない。
「・・・わかりました。」
イザークはヘイスガホッとしたのを見逃さなかった。