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歩み出せるなら

第5章 宇宙に惹かれて


深呼吸をして銃を構え直す。
コツコツと歩く音の方へヒルデはゆっくりと歩みを進めた。
大きなミーティングルームのような場所にたどり着く。

「久しぶりだな、ヒルデ・・」

金髪に青い瞳。
同じ容姿、同じ声で目の前に立っている。
そんな彼に銃を向けた。

「おやおや?寂しいな。久しぶりに会えたというのに・・。」

「いいえ、始めましてよ。」

相手が一瞬ひるんだもののすぐに余裕を見せる。

「私はラウ・ル・クルーゼだ。」

「違う」

彼が言い終わると同時に間髪を入れずに反論する。

「あなたはラウ・ル・クルーゼじゃない。」

「ほう?」

銃を下ろし、クルーゼと名乗る人物の元へゆっくりと歩いて行く。

「あなたがラウなら、私がわかるでしょう?どうやって愛してくれた?ねぇ?教えて?」

彼の頬に触れると緊張したのか体が固くなったのがわかった。

「ああ・・・」

男はヒルデを引き寄せ口づけを交わした。

同じなはずなのだ。
だって、同じ遺伝子なのだから、髪の毛一本、血の一滴まで同じなはずなのに。

違う。

引き寄せられた手も、腰に回された腕も、落とされた唇もその声も瞳も何もかも違う。
どん、と力いっぱい彼を押し返す。

「違うわ・・・。何もかも!!」

銃を再び構えると、男も懐から銃を出そうとする。
銃を出される前に彼の額を撃ち抜いた。

「あなたが本物なら私はあなたを殺せないわ・・・・」

言葉は虚しく部屋に響く。
銃声に驚いた待機していたイザークが部屋に入る。
構えたまま震えて銃を下ろせないヒルデを抱きしめる。
そっとその手にイザークが手を重ねる。
まるで雪が解けるように力が抜けて行く。
ガチガチに固まっていた手が緩み、ゆっくりと銃を下ろした。

「帰ろう・・・。」

私にも帰る場所があるんだと、私も帰っていいんだと彼に言われた気がして、胸がキュッとしまる。

「はい・・・」

目を閉じると、クルーゼのことを思い出して、涙が溢れてきた。
私の好きだったクルーゼは死んだのだ。
誰ももう彼を傷つけさせはしない、穢させはしない。
そう思うとまた涙が溢れてくる。

彼がゆっくりと背中を撫でてくれるのが心地よく、そのまま意識を手放した。
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