【松野千冬】場地さんの双子の姉とお付き合いしています
第1章 場地さんの双子の姉とお付き合いしています
一度大きく深呼吸してから小さな声で「咲桜」と呟いた俺の声はちゃんと彼女に届いていたようで、とても嬉しそうに笑ってくれる。それにつられて俺の口元も少し緩む。笑ってくれて、よかった。
「ほっぺ、いてぇよな」
「大丈夫。眠たいつって殴ってきた圭介よりマシだから」
「場地さん……」
「スゴい腹立ったから、そのあとアイツの大事なとこ蹴りあげてやったけどね!」
「場地さん……!」
「さすがに悶絶してたわ! あはは」
その場面を安易に想像できてしまうのは何でだろう。そして場地さんの痛みを想像して身震いする。場地さん、俺……ぜってぇ咲桜怒らせないようにします。俺、まだ死にたくないんで。
あの場地さんでさえこの仕打ち。俺だったら咲桜に瞬殺されるに違いない。
「……」
「ん? どうしたの、ちふ──ひぅ!」
殺されるに違いない。──けど、死んで本望。
べろり、と咲桜の腫れた頬を舐めあげれば驚いたように肩を揺らしながら可愛い声をもらす咲桜。これでもかと大きく見開かれた目は今にこぼれ落ちそうなくらいで、彼女がどれほど驚いているのかが見てとれる。
「なっ、は?」
「唾つけとけば治るつったの咲桜だろ」
「……はーっ! なに? ほんとなに? 急に雄みのある顔しないでくれる?」
「お、雄み?」
「……心臓持たないから」
腫れだけではない頬の赤みを隠すように、手で自分の顔を隠した咲桜に心臓がぎゅんと締め付けられる。耳まで真っ赤になってる……。
彼女にこんな顔をさせたのが俺なのかと思うと、じわじわと優越感が滲んでくる。いつも一枚や二枚どころか、十枚くらい上手の咲桜がこんな風に照れてんの初めて見たかも。やべ……かわいい。
「顔見せて」
「やだ」
「顔みたい」
「やだ」
「咲桜お願い」
「千冬のクセにぃ……!」
優しく手を掴んでそっと咲桜の顔から手をどける。抵抗されるかと思っていたけどそんなことはなく、彼女は俺にされるがまま……顔から手をどけてくれた。唇をあひるのように突きだして不満ですアピールをする咲桜はやっぱり可愛くて、俺が見たいって言ったらなんだかんだ見せてくれるのだってめちゃくちゃ嬉しい。