【松野千冬】場地さんの双子の姉とお付き合いしています
第1章 場地さんの双子の姉とお付き合いしています
ぽかん、と呆けていると満足したのか両手を腰に当ててドヤ顔をしている彼女を見つめていると、勢いよく俺の方を向いた咲桜さんと目が合う。どうしても腫れた頬に目がいってしまい、憂鬱な気持ちになるのを隠せない。……情けねぇな、俺。大切な彼女のこと守れないなんてさ。一緒にいたのが場地さんだったら、こんなことにならなかったんだろうな。
「千冬ぅ、そんな顔しないでよ」
「……すんません」
「ほら、立って立って」
「……うす」
未だ男に跨がったままの俺に、咲桜さんは手を差しのべてくれた。その手を掴んでやっと立ち上がったものの、どんな顔して彼女を見たらいいのかわからなくて顔が上げられない。咲桜さん怒ってるかな……怒ってるよな。こんな格好のままじゃデートも行けないし。
とりあえず謝って、それからコンビニで怪我を治療できるもの買って、それから──。
「千冬」
「は、はい!」
「ありがと」
「っ! でも、咲桜さんの頬が……」
「ダイジョーブ! このくらい唾つけとけば治るから!」
「でも……」
「はい、千冬がこれ以上でもとか、だってだとか言った数だけデコピンしまーす」
だからこの話はもうおしまい、ね? と首を傾げて顔を覗き込んでくる咲桜さんに、自分の意思とは関係なくこぼれそうになる涙をグッとこらえる。……かっけぇ。一歳しか違わねぇのに、何でこんなにも差があるんだよ。
「すんません、デート台無しにしちゃって」
「デートを台無しにしたのは千冬じゃなくて、こいつらでしょ?」
「でも、俺が──」
バチッ
「いでっ!」
「でも、って言ったー! デコピンの刑に処すー!」
「ガチのデコピンじゃないですか……」
「加減してもらえると思ったの? 舐めてんじゃねーぞ」
「さすが咲桜さん……」
「ねえ、もう咲桜って呼んでくれないの?」
そう言いながら俺の顔にかかった返り血を制服の袖でごしごしと吹いてくれる咲桜さんは、期待半分不満半分といった顔で俺のことを見ている。さっきのは場の雰囲気と言うか、その場の勢いと言うか、ただ頭に血が上りすぎてさん付けするのを忘れただけだけど……こう意識的に呼べと言われると、どうにもこっ恥ずかしいものがある。