【松野千冬】場地さんの双子の姉とお付き合いしています
第1章 場地さんの双子の姉とお付き合いしています
ガリッ
「イッダダダ!」
場地さんと咲桜さんが同じなのは艶やかな髪の毛だけじゃない。人のものとは思えない鋭利すぎる八重歯も一緒で──その特徴的な八重歯を携えた口を大きく開けて、彼女の顎を掴んでいた男の手に勢いよく噛み付いていた。うわ……あれ、ぜってぇ痛いやつだ……。男の手に深く食い込んだ八重歯を見て、違う意味で俺の血の気が引いた気がする。
「クソッ!」
「い"っ!」
「咲桜!」
バキッ。大きな音がしたと同時に咲桜が地面に倒れこんだ。それを見てヒュッと息が止まる。そして自分の中でプツンと何かが切れる音がした。──は? 俺の大事な人に何してくれちゃってんの?
頭で考えるよりも先に体が動いてたいた。力の限り地面を踏みしめて、咲桜を殴ったやつに飛び蹴りをかます。地面と仲良くコンニチワした男の上に馬乗りになり、自分の拳を男の顔に叩きつける。何度も、何度も何度も。ガッとか、ゴッとか、日常ではあまり耳にしない音が辺りを支配する。
白目を向いて動かなくなった男を殴り続けていると、もう一人の男が後ろから襲いかかってきた。が、肘鉄を眉間に入れて顔を潰す。鼻が折れたのか制服に血がパタタと飛び散ったけど、どうでもいい。
──コロス。
「俺の女に手ぇ出しやがって!」
「千冬!」
「咲桜を傷つけやがって! 許さねぇ!」
「千冬ってば!」
振り上げた手を掴まれ、やっと我に帰る。ハァ……ハァ……と荒い息を整えながらゆっくりと腕を下ろしながら──やっちまった、ただその思いだけが頭の中を反芻する。
「何やってんのよ!」
「す、すんません。せっかくのデートなのに、俺……」
「私が一発殴る前に、全員ノシてんじゃないわよ! 千冬のバカ!」
「……へ?」
明後日の方向どころか、想像もしていなかった返事に思わず間抜けな声をもらす。少し頬を腫らした咲桜さんは口をへの字に曲げながら、白目向いた男の脚をゲシゲシ蹴っている。いや、え……ええー?