【松野千冬】場地さんの双子の姉とお付き合いしています
第1章 場地さんの双子の姉とお付き合いしています
「おい、こいつ東卍の松野じゃね?」
「は? マジかよ」
「だったらなんだ」
あー、運が悪い。何で今日なんだ。「やっちまおうぜ」なんて聞こえてきた言葉に大きくため息をつく。俺の後ろにいる咲桜さんに「下がってて」と声をかければおとなしく後ろに下がってくれたのを見て、前に向き直る。
地面に鞄を落として手をゴキゴキと鳴らせば、前の男たちもやる気を見せてきた。上等じゃねぇか、全員──。
「ブッ潰す!」
言うが早いか殴ったのが早いか、一番近くにいた男の顎を力の限りぶん殴る。咲桜さんとの時間を邪魔した罪は重いんだよッ! と思いつつも「いけー!」「やれやれ千冬ぅ」と後ろから大好きな彼女の声で激励が飛んでくるっていうのも悪い気はしない。男の鳩尾に重い一発をお見舞いすれば、呆気なく倒れたのを確認して短く息を吐く。
「いいぞー! 千冬ぅ! みんなボコしちゃえー!」
「んのアマ……!」
「ん? わわ!」
「ッ! 咲桜さん!」
三人いた男のうち一人が咲桜さんの腕を掴み上げて乱暴に引っ張ったのが目に入り、頭に全部上っていた血が一気に引いていくのを感じた。そっちに気をとられて一発もらってしまったが、そんなことはどうでもいい。
顔をしかめた咲桜さんは両手を後ろ手で纏められ、顎を無造作に掴まれている。
「おとなしくしねぇと、この女がどうなるかわかってんだろうなァ」
「っは、クソダセェな」
そう言った瞬間、隣にいた男に思いきり顔を殴られて顔に痛みが走る。それと同時に「千冬ッ!」と咲桜さんに名前を叫ばれ、ちらりとそちらを見れば眉を八の字に下げて心配そうな顔をしている。そんな顔すんなって、俺なら心配ないから。
「アンタたち! 千冬になにすんの!」
「暴れんなって! チッ、意外と力つぇな!」
「うるさいわね! さっさと離しなさいよ! ただじゃおかないわよ!」
「はあ? 女に何ができるって──」