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【松野千冬】場地さんの双子の姉とお付き合いしています

第1章 場地さんの双子の姉とお付き合いしています


 まるで試されているような物言いに一瞬ウッと言葉に詰まるが、大きく深呼吸して彼女に向き直る。俺は咲桜さんも場地さんも大好きだ。大好きだけど──。

「場地さんへの好きと、咲桜さんへの好きは別もんなんで」
「うん」
「場地さんのことは同性として、人として、好きです。けど咲桜さんのことは……一人の女性として愛してます」

 言った! 俺言った!!!
 早鐘を打つ心臓を必死に沈めながら、平常を保つ。しかし、ほんのりと頬を染め上げた咲桜さんの顔を見たら、そんなものは呆気なく崩れた。キス……してぇ。綺麗な瞳に吸い込まれるように、そっと顔を近づけて触れるだけの口づけを交わす。柔らかな唇の感触にもっと触れたくなったけど、外でそんなにがっつくもんじゃねぇよな、となんとか理性を働かせて押しとどまる。

「……私も千冬のこ──うわっ!」

 彼女の驚いた声に振り向くと誰かにぶつかったらしく、よろりとふらついた咲桜さんを急いで支える。どこのどいつだよ、と相手を睨み付けるとガラの悪い高校生くらいだろうか? 男が三人、俺たちを見下ろしながらガンを飛ばしている。

「いってぇな!」
「ぶつかってくんじゃねえよ!」
「はあ!? テメェらこそぶつかってきたくせにイキってんじゃねぇよ! 咲桜さんに謝れ!」
「ア!?」
「千冬、私は大丈夫だから。行こ?」

 時間がもったいないよ。そう呟いて歩き出そうとした咲桜さんの顔が少し歪んだのを見て、反射的に男たちを睨み上げた。彼女の白くて細い腕が男の手に捕まれているのを見て、カッと頭に血が上る。衝動的に男の腕を掴んで力を入れれば、咲桜さんを掴んでいた男はギロリと俺の方に視線を寄越す。

「その汚ぇ手を咲桜さんから離せ」
「はあ?」
「離せつってんだよ!」

 いつまでも咲桜さんから手を離さない男に嫌気がさして、更に力を込めればメシメシと骨の軋む音が辺りに響く。さすがに腕が痛くなったのか、俺の手ごと振り払うようにして距離をとった男と咲桜さんの間に体を滑り込ませて、彼女を自分の後ろに隠す。
 ここで怯えた素振りを全く見せない辺りはさすが場地さんの姉、と言ったところだろうか。頼りになりすぎて心強いわ。
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