【松野千冬】場地さんの双子の姉とお付き合いしています
第1章 場地さんの双子の姉とお付き合いしています
ぴくり。小さく体を揺らして俺の方を見つめる咲桜さんの顔は少し驚いた表情をしている。それはきっと──俺がいきなり彼女の手を繋いだから。情けねぇ話だが、俺からあまりこういうことをするのは少ない。恥ずかしいのもあるが、まず一番に自信がない。
手を繋いで嫌がられたらどうしよう、なんて思うと今一歩勇気を出せなくて。キスだってそう。誰か俺を甲斐性なしだと殴ってくれ。
「……場地さんに言われたからじゃないスからね」
「ん?」
「俺が! ……手ぇ繋ぎたかったんで」
段々と尻すぼみになっていく俺の声に、情けないと自分で泣きたくなる。もっと余裕があって、大人な男に見せたいのに現実ではどうもうまくいかない。
「私も」
「え?」
「私も繋ぎたかったよ、手」
嬉しい。そう言って自分の指と俺の指を絡め、いわゆる恋人繋ぎにしてきた咲桜さんにドッと一際大きく心臓が跳ねる。すり、と俺の腕にすり寄ってきた咲桜さんからはいい匂いがしてきて、これまた俺の心臓に悪い。
盗み見るように隣を見れば、しっかりと視線が交わってはにかんだような笑顔を向けられる。……やば、可愛すぎんだけど。
「千冬から手を繋いでくれて嬉しい」
「……嫌じゃないスか?」
「まさか! 嫌なわけないじゃん」
「……よかったぁ」
「私、自分が嫌だと思う人と付き合うほどお人好しじゃないよ?」
「? はい」
「だーかーらー。千冬が思ってるより、私は千冬のことが好きってこと!」
「は……」
ズルくねぇ? こんなのズルくねぇ!?
絶対に真っ赤であろう顔を見せたくなくて、おもいっきり反対の方に顔を背ける。──が、隣から「千冬ぅ、耳まで真っ赤だよ」と楽しそうな声が隣から聞こえてきて、また顔が熱くなる。
でも……めちゃくちゃ嬉しい。どう頑張ってもにやけてくる口元を手で隠しながら、彼女と繋いだ方の手に少しだけ力をこめた。離さない、そう想いを込めて。
「ふふ、たまには圭介も役に立つわねー」
「場地さんが役に立たないことなんてないですよ!」
「勉強に関しては何の役にも立たないじゃん」
「そ、れは……その、場地さんがんばってます!」
「だね。結果は伴ってないけど」
「うっ……」
「千冬は本当に圭介のこと好きね」
「はい!」
「私と圭介、どっちの方が好き?」