【松野千冬】場地さんの双子の姉とお付き合いしています
第1章 場地さんの双子の姉とお付き合いしています
「これ以上いらないこと言ったら殴る」
「人の脇腹つねってから言うンじゃねぇよ!」
「これ以上バカにならないように頭を殴らなかったんだから、逆に誉めてほしいわね」
「アバズレ女!」
「あらー圭介、アバズレなんて難しい言葉知ってたのねー。ぷぷー」
「こンのクソアマ……!」
「千冬、逃げるよ!」
「えっ!? あ、お、お先です場地さん!」
きゃー! っと棒読みの叫び声をあげながら俺の手を掴んだ咲桜さんは、昇降口に向かってまっしぐらに走る。いつものことだけれど、俺は場地家に振り回されてばかりだなあ。でもそんな日常がたまらなく好きだ。
中学校に入ったばかりの頃は世界が灰色だった。学校も、人も、自分さえもがメンドくさくて、何をしてもつまらなかった。喧嘩だってただの暇潰し。誰かを殴っているときはスカッとしたし、何より自分の存在が証明されている気がしていた。
そんなどうしようもないほどクズだった俺を変えてくれたのは、間違いなく場地さんと咲桜さん。──この二人だ。灰色だった俺の世界は一瞬で色づいたし、つまらなかった日常は一気に面白みに溢れるものとなった。一生ついていきたい、そう思える人たち。
「ここまでくれば大丈夫でしょ」
「場地さん、めっちゃ怒ってましたね」
「帰ってペヤングでも差し入れしたら機嫌直るでしょ!」
さすが双子、場地さんの扱い方を完璧に心得ている。靴を履き替えるために、一旦下駄箱でわかれた咲桜さんの後ろ姿を見つめる。たまに、たまに不安になる。なんでこんな素敵な人が俺と付き合ってくれたのか──と。ちなみに、それを場地さんに言ったら「千冬ぅ……頭ダイジョーブか?」と割りと本気で病院をすすめられたのはまだ記憶に新しい。姉弟だとそんなものなんだろうか。
靴を履き替えてもう一度一緒になった俺たちは並んで校門へと向かう。その間、他愛もない話をしながらも俺の頭は先ほど場地さんに言われた言葉がずっと反芻していた。……繋いでも、いいのだろうか。
「でさーこの間マイキーが私ん家遊びに来たんだけど、圭介の動物図鑑にコーラこぼしちゃって! 家ん中で喧嘩おっぱじめるもんだから二人とも追い出して──っ、千冬?」