【松野千冬】場地さんの双子の姉とお付き合いしています
第3章 場地さんの双子の姉がモテて困ります
「ずっと傍にいさせてください」
「じゃあ、ずっと傍にいたいって思えるような彼女でいないとだね」
「……これ以上いい女になられたら困るんスけど」
「私だって千冬と釣り合う女でいられるようにがんばってるんだから」
少し唇を尖らせながら「千冬、モテるから」と呟く彼女は本当にズルイ。俺だって咲桜に釣り合うような男になりたいし、咲桜だってモテてるし、これ以上俺を困らせんなよ。マジで。
場地さんもだけど、咲桜も知らないんだ。自分がどんだけカッケェやつかってことを。普段当たり前のように俺へしてくれることは、当たり前なんかじゃないってことを。ちょっとした気遣いから感じられる優しさに、俺はいつも救われているんだってことを。
「千冬ぅ」
「はいっ」
「あと十分で昼休憩終わっちゃう」
「え"」
「そこで咲桜さんから提案なんだけど」
サボろっか! イタズラを思い付いた幼子のように笑った咲桜に「はい!」と元気よく返事をしてから、はたと気づく。俺はまだしも、咲桜は授業をサボっても大丈夫なのだろうか? いつも真面目に授業を受けているし、内申点なんかにも関わってくるはず。
返事だけしてその場から動かない俺を不審に思ったのか、咲桜は「どうしたの?」と小首を傾げながら俺に問いかけてくる。
「咲桜は授業サボっても大丈夫なんスか?」
「うん。一限ぐらい大丈夫でしょ」
「ほんとに? 無理してません?」
「してないしてない。千冬は心配性だなあ」
「重荷にはなりたくないんで」
「ならないならない。ほら行くよー」
俺の手をひいてルンルンと歩く咲桜を慌てて追いかける。通りすぎる人がチラチラと振り返って見てくるが、彼女は微塵も気にしていない様子。途中で場地さんと三人で昼飯を食べる予定だった空き教室を覗けば、すでに弁当を食べ終わったであろう場地さんが机に突っ伏して昼寝をしていた。