【松野千冬】場地さんの双子の姉とお付き合いしています
第3章 場地さんの双子の姉がモテて困ります
「ちふ、ゆ。ここ学校」
「知ってる」
「誰かに見られたらどうすんの」
「それで咲桜に変な男が寄ってこなくなんなら、見られてもいい」
体を少し離して、彼女の頬を両手で包んで視線を合わす。咲桜の瞳が珍しくゆらゆらと水面をたゆたう海月のように揺れ、いつもより欲情的に見える。──彼女にそんなつもりは毛頭ないんだろうけど。
「そんなことしなくても私は千冬以外に靡いたりしないよ」
「だとしても咲桜が他の男に告られてんのやだ。俺の彼女だーって見せびらかしてぇ」
「独占欲の塊じゃないですか」
「可愛すぎる咲桜が悪い」
「今日の千冬、愛が強すぎて心臓に悪い」
「俺だってやられっぱなしじゃないんスからね」
咲桜の顎を指ですくうように持ち上げて唇を重ね合わせる。ここが学校だということに背徳感がせり上がってくるが、それすらも興奮材料になしかなりえない。夢中で咲桜の柔らかな唇をむさぼっていると──。
カシャッ
「……は?」
シャッター音が聞こえてきて、思わず間抜けな声を漏らす。音のした方を見てみると、咲桜が腕を一所懸命伸ばしてケータイで写メを撮っていた。訳がわからず呆けているとまたカシャリとシャッター音が聞こえてきた。犯人はもちろん咲桜。
「待ち受けにしよーっと」
カチカチとケータイを操作したあと、見せてくれたのは間抜けな面した俺が待受画面になっているところ。「この千冬めっちゃ可愛くない?」と訊かれたけど、全然可愛くないッス。
「何してんの?」
「写メ撮った」
「なんで?」
「千冬くんが可愛かったから、ついつい」
右手をコツンと頭に当てて、てへぺろと可愛いポーズをとる咲桜。それで俺が許すと思ってんのかな? そんなとこも可愛いし、ポーズも可愛いから許すけど。
ふふーんと上機嫌に鼻歌を歌っている咲桜を一瞥してもう一度、力強く抱き締める。腕の中で不思議そうに俺の名前を呼ぶ咲桜は世界で一番可愛い。誰にも渡したくないし、ずっと傍にいたい。彼女の肩に顔をうずめていると、ゆっくりと俺の頭を撫でてくれる。その感覚が心地よくて目を閉じ、咲桜に身を委ねた。