【松野千冬】場地さんの双子の姉とお付き合いしています
第3章 場地さんの双子の姉がモテて困ります
「女が言うこと聞かないからって手をあげんな! 圭介も千冬もそんなこと絶対しない!」
「くっ……」
「ブッ飛ばされたくなかったら、身の程をわきまえることね!」
「お、まえみたいな女! こっちから願い下げだ!」
「わあ、奇遇。私もちょうど同じこと思ってたの。──さっさと失せろ」
目に角を立てる咲桜に気圧されたのか、男は逃げるようにして俺の隣を走り抜けていった。一発殴ってやりてぇとこだったけど、男の左頬についた真っ赤な紅葉を見てその気持ちが萎える代わりに優越感が芽を出す。ざまぁみろ、と。──っと、こんなやつのことより咲桜だ。
ゆるりと振り返れば中指をおっ立ててガンを飛ばしている咲桜と目が合った。俺と視線が絡まったその目は徐々に見開かれていき、ばつが悪そうに視線をさ迷わせ始めた。ちなみに中指を立てていた手はそっと下ろしていたけど、バレてないと思ったのかな。可愛い。
「ち、千冬さんいつからそこに」
「ごめんなさいしてるところから」
「けっこう序盤! いるなら言ってよ!」
「タイミング逃しちゃって……」
「やだもー! 恥ずかしい!」
ぽぽぽっと頬を桃色に染めた咲桜はそっぽを向くけど、それすらも愛しく思えてくるのだから恋心とは厄介なものだ。そんなクソデカ感情が抑えきれず、勢いに任せて咲桜を抱き締めた。腕の中で咲桜の肩がぴくりと揺れたが、抱き締めているせいで彼女の顔が見えない。今、どんな表情をしているんだろう。驚いたのか、照れて──はいないか。咲桜だし。
離したくなくて、抱き締める力をぎゅっと強めると「千冬ぅ、苦しいよ」と呆れたような声が耳に入ってきた。
「俺……」
「んー?」
「俺、咲桜の彼氏でよかった」
彼女の耳元で呟くように言葉を吐けば「んっ」と鼻にかかったような吐息が聞こえてきて、背筋にぞわりとした快感が走る。少女漫画よりも甘い、この好きって気持ちはどんどん溢れてきて止まらない。
ちゅっちゅっと咲桜の首筋に口づけを落とせば、優しく俺の背中に回ってくる手。可愛い。咲桜の行動ひとつひとつが俺を浮き足立たせる。