【松野千冬】場地さんの双子の姉とお付き合いしています
第3章 場地さんの双子の姉がモテて困ります
「私、彼氏いるから。あなたと付き合うことはできないです」
だからごめんなさい。いつもより凛とした意思の強い声が聞こえてきて、思わず息を飲む。はー……俺、ダッセェ。なんで咲桜のこと信じてやれなかったんだろ。彼女はこんなにも真っ直ぐ俺を好きでいてくれるのに。
とりあえず咲桜を連れて場地さんのところへ戻ろう。時計を見ると昼休み開始からもうすぐ十五分、結構な時間をロスしてしまった。場地さん、もう昼飯食い終わってるたろうな。そう思いながら一歩踏み出そうとして──。
「松野千冬だろ?」
ピタリと足を止めてしまった。
「知ってたんですね」
「この学校じゃ二人は有名だからな」
事も無げに返事をする咲桜とは違い、俺は変なところから汗が出てきた。俺が不良だから……やっぱ咲桜に迷惑かかけてんのかな。いつだったかそれを咲桜に言ったときは「千冬と付き合ってなくても圭介がいるからどっち道一緒よ」なんて一蹴されたけれど。
「なのに告白してくれたんですね、わざわざありが──」
「松野より俺のが咲桜ちゃんに合ってると思ってさ」
「……」
「不良の彼氏なんて相手大変だろ? 俺なら優しくしてやれるし、怖い目に合わせることもない」
「……そうですねぇ」
何か思案するような声の咲桜に、俺の胸はドキドキと緊張していることを主張し、まるで耳の隣に心臓があるかのような錯覚さえ起こす。……咲桜、なんて答えるんだろう。聞きたいような聞きたくないような、ぐらぐらと気持ちが揺らいでいるところに「確かに」と咲桜の声が聞こえてきて、胸を鷲掴みにされたような痛みが走る。心臓が苦しい。