【松野千冬】場地さんの双子の姉とお付き合いしています
第2章 場地さんの双子の姉と初めて出会いました
目の前の咲桜さん──いや、咲桜は少し不満そうな顔をして俺を覗きこんでいる。約一年前の記憶と同じエプロンをつけている咲桜は、ポテトサラダの乗ったスプーンをぐいぐいと押し付けては早く食べろと無言の圧力をかけてくる。
そう言えば咲桜に誘われて、場地家に夕飯食べに来たんだったっけ。
「ボーッとして、何かあった?」
「大したことじゃないです。ただ、咲桜と初めて会ったときのこと思い出してて」
「ニワトリ千冬ね」
「その呼び方止めてくれません?」
「どう見てもトサカだったもん」
ふふ。と風に揺れた花のような笑顔を向ける彼女に頭を掻くことしかできず、差し出されたポテサラを口に含んで照れ隠しをする。きっと咲桜には、これが照れ隠しだということもバレているのだろうけれど。「うまいッス」と声をかければニッと口の端をあげて「とーぜん!」と言ってのける彼女に俺も自然と笑顔になる。
「圭介が帰ってくるまでに終わらせないとねー」
場地さんはマイキーくんに呼ばれて出掛けている。咲桜のケータイにもうすぐ帰るって連絡が来ていたから、あと十五分もしたら帰ってくるだろう。あの日と同じくポテトサラダを作ってくれた咲桜。違うのはメインがハンバーグなのと、場地さんがいないこと。
あの時から変わらず俺の心を引き付けるのが上手い咲桜は、恋人になれた今も変わらず俺の心を掴んで離さない。ずるくて、愛しくて、大切な人。
「なんかさー」
「はい?」
「こうしてると新婚さんみたいだよね、私たち」
意地悪く目を細めた咲桜さん。俺とも場地さんとも違う白くて華奢な手は俺の頬を撫で、親指が俺の唇の上を艶かしく這う。ドッと勢いよく心臓が跳ね、変な汗が身体中から吹き出すのが止められない。は? えっろ。えっっっろ。