第1章 カゾク×ト×ワタシ
こうしてイルミのベッドで眠るようになったのはいつの頃からだろうか。
ネルルは目の前にいる兄の温かい香りを胸いっぱいに吸い込み、ほっと息をつくと瞼を閉じ、小さい頃の記憶を頭に浮かべた。
「わ…っ!!!」
ドサ…とネルル転ぶ。敷地内に散りばめられている仕掛けの1つ、毒矢がそばに落ちている。訓練の途中で足首に傷をつけてしまったようだ。
「んん〜っ!!いったぁいっ。」
「どうしたの?もしかして仕掛けに引っかかった?」
振り返ると、無表情の兄が立っていた。
「そこの仕掛け、この間から位置が変わってないみたいだけど、気づかなかったの?前は避けれてたのに。ほんとにまだまだ甘いんだね。」
呆れたように言いくるめられる。
「……ごめんなさい…。」
「その仕掛けの毒、まだ耐性つけてないやつだから立てないと思うよ。」
「そうだろうなと思った…いたくてたまらない。どうしよう…。」
「はぁ。俺が背負って連れて帰るしかないと思うけど。執事寮の治療道具借りようか。ちょうど予定があったし。」
「ごめんなさい…」
「ほら、早くしないと帰るのが遅くなる。」
背中に乗りなよ、と、イルミがその場で低くなる。
「あっ…ありがとうお兄ちゃん!ん…しょっと。」
大きな背中にもたれかかる。
瞬間、イルミは執事寮に向かってトンっと地面を蹴る。
落ちないように、兄の首にぎゅっと手を回す。
こんなに近くにいるのに
こんなにくっついて
体温を感じているのに。
兄に対して胸が熱くなる想いは、ネルルの心の中にまだ微塵も棲みついていなかった。
「イルミ様、どうなさいましたか?」
「ちょっと治療道具貸してもらえない?ネルルがあそこの毒にやられちゃってさ。」
「かしこまりました、お待ちいたしますので、どうぞ中にお入りください。」
「いや、すぐ帰るしそこでやる。中に入ったらまたネルル帰りたがらないの目に見えてるし。」
「左様ですか…かしこまりました。」
ベンチに降ろされたネルルは、遠くでイルミと執事のゴトーが何か話すのを眺めていた。
(中入らないのかな?執事のおうちのお菓子美味しいからたべたかったな…)
傷を負っているにもかかわらずぼんやりと、そんなことを考えている。