第2章 ワタシ×ト×奇術師
「…………。お前はなにに憧れてるの?」
「へ?」
急に憧れなど問われても…と、素っ頓狂な声が出てしまった。
「男と2人でなんてね。よりによってヒソカと。
まさか、恋人ごっこのつもりじゃないよね?
愛なんて必要ない、邪魔なだけだから。俺が口を酸っぱくして教えたよね?」
「あ……お兄ちゃん……」
ぐるんぐるんと、頭の中が多く揺れている
「それ…やめて……憧れなんて…なんにもっ…ない…」
イルミの手が額の手前に差し出されている。
昔からそうされている時は、頭の中がひどく揺れている。お酒にひどく酔った時の感覚に似ているのだろうか。
訓練で毒を摂取して貧血を起こしたり体調を崩す時は数多とあったが、脳みそが揺れる感覚は、この時しか起こらない。
今すぐに、考えることをやめたくなる。
「お兄ちゃんごめんなさい、もう、つまらないことは考えません。」と吐いてしまえば途端に頭の中はすっきりとする。
でも、今回ばかりはどうしても知りたかった
自分の知らない兄の事を。
「お、お兄ちゃ……」
「お前に恋愛をする資格も、その経験なんて必要ないんだよ。」
さっきより明らかに、頭が重くなった
冷や汗が止まらない。目は、兄の漆黒の瞳と重なりあったままだ。本能的に死を感じるほどの禍々しい何かに押しつぶされてしまいそうだ。
「ご、ごめ…なさ…い…っ」
ぽつりと
「もう、変なことは…考えません…」
目を虚ろにして、恐怖から逃げるように情けない声が口から零れてしまう。
「ハァっ…ハァっ…」
パ…ッと、頭が明るく鮮明になった。
が、冷や汗のせいでジトリと髪が頬に張り付いたままだ。
「あーよかった。ネルルにそういうことはまだ早いと思ってたんだよね。」
額に出されていた手は頭を撫でている。
「汗、すごいよ」
「んっ…」(ぴくんっ)
反対の手で頬の汗を拭う兄の手に、反応してしまう。