第3章 爆豪くんと初デート(?)
それから電車に乗りこんでも、爆豪くんは手を離してくれなかった。
ただ腕を掴まれたんならまだ良かった。
しかし爆豪くんは、まるで恋人がするように、ちゃんと手を繋いできた。
爆豪くんがそんな感じで振舞っていりゃ、びっくりするほど注目の的になってしまうらしい。
多分、だけど、写真も撮られたんじゃないかと思う。
私は一応、轟くんの彼女なのにな。
爆豪くんが写真を撮られているのに気が付いて、嫌そうにしながらも私を庇うように立ち塞がる。
そんな動作を見てしまって、どうしても「手を離して」と言い出せない。
そんな自分が最低なのは確かだ。
「……おい」
「何?」
「次降りんぞ」
「……うん」
さして混んでもない電車の中で、爆豪くんは淡々と呟く。
爆豪くんからしたらきっと、大したことじゃないんだろうな。
羨ましいような、複雑なような。
せめて爆豪くんが意識してくれていたら、なんて。
それこそ最低だな。私。
「……おい」
「…………」
「おい、行くぞ観月」
余計に落ち込んでいるうちに、電車は目的地の最寄りに到着したらしい。
爆豪くんはやっぱり淡々とした口振りで、なぜだか私の苗字を呼んだ。
「えっ……あ、うん」
いつも、切島くんはクソ髪とか、上鳴くんはアホ面とか、そんなふうに呼ぶ爆豪くんが、私を苗字で呼んだ。
その意味がわからなくて、反射的に、爆豪くんの顔を覗き込んでしまう。
爆豪くんの表情なんて、私が読めるはずないと思っていたのに。
爆豪くんはしかめっ面で、けれどもほんのり顔を赤く染めていたのだった。