第3章 爆豪くんと初デート(?)
こんな状況になってしまえば、もう店員さんを呼ぶのは無理だろう。
というか爆豪くんが持ってるの、爆豪くんが使ってたレンゲだし。
そうなる前に自分が食べていた坦々麺のレンゲで、料理を掬っておけば良かった。
「あの、爆豪くん」
「腕疲れんだろが」
「ええぇ…………」
それなら辞めちゃったらいいのに。
そう思いながら爆豪くんを見ても、爆豪くんは表情を変えない。私が諦めるしかないらしい。
だとしても、どうやって食べるのが正解かな。
レンゲを受け取るか、そのままぱくりと口にしちゃうか。
コンマ数秒迷った上で、私はレンゲに向かって手を伸ばす。
いわゆる「あーん」の仕草なんて、爆豪くんとやるわけにはいかないし。
そう思ったのに、私がレンゲを手にするより先に、爆豪くんの手が伸びる。
「ん"っ」
口内に、四川麻婆の辛さが広がる。
坦々麺とはまた違った旨みがあって、それはもう美味しいんだけど。
「うめぇだろ」
「……そうだけど」
「あ?」
私を軽く煽るように、口角を持ち上げて笑う爆豪くん。
私がこういう時に言い返せないタイプだと、多分彼は知っているのだろう。
「……爆豪くんも、これ食べる?」
ならば仕返ししてやろうと、私は自分で食べていた坦々麺のお皿を、爆豪くんの方に寄せる。
爆豪くんは一瞬、驚いたように目を見開いて、それからまた意地悪く笑った。
「ドーモ」
そしてなんの抵抗もなさそうに、私の食べていた坦々麺を口に運ぶ。
私は、困惑したのに。
本当に何気なく食べられてしまって、結局私が撃沈するだけだった。