第1章 爆豪くんがちょっと苦手。
轟くんは疲れているだろうし、洗い物も私が引き受けようと思ったけれど、ストレートに拒否された。
準備から片付けまでやらせるわけにはいかない。
と頑なに言われてしまったけれど、私は轟くんとの時間を作りたかっただけなのに。
面倒だと思われてしまう。
分かっていても拗ねてしまって、轟くんはたっぷりと間を取りため息をついた。
「……じゃあ、食器拭いてくれねぇか」
「! うん!」
轟くんが、シンクの横に掛けられたマイクロファイバーのタオルを手に取り渡してくる。
それを受け取って、横並びでキッチンに立っている時間は、何だか恋人らしくて好き。
「ねぇ」「なぁ」
偶然、口を開いたタイミングが同じなのも嬉しくて、浮かれ気分になりながら、轟くんに話を譲る。
「……悪ぃ」と轟くんは一言。そんなに気にしなくてもいいのに。と思いながら、「大丈夫だよ」と私が呟くと、それから轟くんは、重そうに口を開いた。
「明日からも昼は予定があって、放課後は訓練があるんだ」
「……え、そ、そう、なんだ」
「朝も早くなる」
「…………え」
「待たなくていい」
「なんっ……」
で、と言いかける前に、ガシャン。と大きな音がした。
「何何、大丈夫か!?」
「わー、お皿割れてるじゃん!」
「観月、怪我してねぇか?」
共同フロアのテレビを観ていたクラスメイトが駆け付けてくれ、私と轟くんの足元に散らばった、お皿をちょっとずつ片付けていく。
自分でやるべきだと分かっているのに、動く事も、お礼を言うことも出来なくて、ただ私は呆然とした。
私は別に、待つことなんて負担じゃないのに。
ただ轟くんと、一緒に居たいだけなのに。
轟くんにとっては、それすら負担だったのだろうか。
それなら、もっと早くに、言ってくれたら。
「ちょ、朔良、指切ってるじゃん! ……って、泣いてるし! 急でびっくりでもした?」
駆け付けてくれた響香ちゃんは、私の異変に気が付き、ゆっくりと腕を引いてソファーに座らせる。
違う。これくらいの怪我、泣くほど痛いわけじゃない。びっくりしたわけでもない。ヒーロー基礎学の時とかは、もっと大変だもん。
どうしようもなく痛いのは、轟くんに拒否をされた心の方だ。