第1章 爆豪くんがちょっと苦手。
「……うめぇか」
「…………んぐ、美味しい、けど」
「あ?」
「や、やっぱ何でもない! これありがと! 改めてお詫びするから!!!」
轟くんの蕎麦を盛り付けるためだ。と心に言い聞かせ、爆豪くんから距離を取る。
何でこんなことしておきながら、爆豪くんは平然とした顔しているんだ。
仮定その一。爆豪くんは女慣れしているから。
その二。爆豪くんに女として見られてないから。
どうしよう、そんなこと考えている場合じゃないのに。
我に返った頃には、轟くんのために一生懸命練習して用意したはずの蕎麦が、ぐったりと伸びてきていた。
どうしようか迷った後、とりあえず伸びた麺の水を切り、めんつゆを取り出して味見をする。
「……やっぱ水っぽいな」
これは私が食べることにして、轟くんの分はもう一度茹でよう。
先に用意していた分は、明日の朝にでも食べたらいいんだから。
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幸か不幸か、麺を茹でなおすことで生じたタイムロスで、爆豪くんとの夕飯は別々になった。
つまりは轟くんと二人。
やっぱり、幸せの比率の方が大きいかもしれない。
途中から二人で準備した蕎麦をテーブルに運び、席に着いて、蕎麦をすする。
「……美味い」
「本当?」
「あぁ」
「……良かった」
轟くんの頬が緩んで、釣られるように私も笑う。
伸びきって水っぽくなった私の方はそんなに美味しくないけど、轟くんが満足してくれたなら、それでよかったかも。
そう思い、蕎麦をすする手を止めて、爆豪くんがくれた料理を口に運んだ。