第1章 爆豪くんがちょっと苦手。
響香ちゃんは手早く絆創膏を用意してくれて、そして私の指に巻いてくれた。
その間、他のクラスメイトが割れた食器の片付けを済ませてくれ、何人かは「大丈夫だよ」と私を励ましてくれた。
そんな皆に申し訳なく思いながら、潤んだ目で轟くんを探す。
轟くんは視界のずっと先で、私の残した食器を、一人片付けていた。
怪我をした私に対するアクションは無い。
一応、彼女なのに。
「大丈夫か」
その一言だけでいいのに。
「……朔良、大丈夫?」
「……うん。ごめん。今日は部屋に戻るね。絆創膏ありがとう」
ずび、と鼻を啜った後で響香ちゃんに返事をし、皆におやすみの声を掛けながら、ふらふらとした足取りで部屋に戻る。
轟くんに対して不安になるのは、私の心に余裕が無いから。
余裕が無いのは、休みが足りてないから。
そういう理屈だと思って、ベッドに入り頭まで布団を被る。
しかし、一向に睡魔が来ないまま、気がつけば朝が来ていた。
早朝、轟くんが言葉通り、寮を出てどこかに向かっていく姿を部屋のベランダから見た。
その少し前に寮を出た緑谷くんは、体育着で。
轟くんは、寝巻きよりはしっかりとした部屋着で。
こんな朝早くから、皆に内緒でどこに行くんだろう。
追いかけたい気持ちと、何も知りたくない気持ちとがぶつかり合う。
当然、追いかける勇気なんて持ち合わせてはいない。
部屋に戻ってカーテンを閉め、まだ薄暗い部屋の中で、声を押し殺して泣いた。