第1章 爆豪くんがちょっと苦手。
「……あぶねぇだろが」
そんな声と、甘いニトロとほんのりとしたスパイスの香りと。
ふきこぼれそうになったお湯は、それらを引き連れた爆豪くんが止めに来たのだ。
「ごめん、ありがとう」
「ぼーっとするくらいなら料理すんなや。別に舐めプの分くらい、てめぇが作る必要はねぇだろ」
「必要はないけど、作るのは自由でしょ」
作ってあげたいのだ、轟くんに。
料理は得意な方じゃないけど、轟くんのために、頑張って覚えたんだから。
そう思いながら突っぱねると、爆豪くんは眉間に皺を寄せながら舌打ちをした。
「少なくともぼーっとすんなや。授業中からぼやぼやし過ぎなんだわ」
「……気をつけます」
そうだ。授業中にはプリントを取り損ねて、爆豪くんに怒られたんだっけ。
そう考えれば、今日は爆豪くんに迷惑をかけてばかりな気がする。
「ごめんね、色々。代わりに何かお詫びさせてくれないかな」
「んなもんいらね……んじゃ、手伝えや」
「な、何を?」
相変わらず眉間に皺を寄せながら、一度私の頼みを断った爆豪くん。
しかしその数秒後、怖すぎる笑顔を浮かべた爆豪くんは、何だか楽しそうに食器棚に向かった。
一体何をされるのか。
困惑する私をよそに、爆豪くんは自身で調理していたものを、二つのお皿に取り分けていく。
一つは多めに、もう一つは少しだけ。
そしてその少しだけ盛られたお皿を、爆豪くんは私に押し付けた。
「食え」
「え」
「チャラにしてやる」
「で、でも」
「グダグダ言っとんじゃねぇ」
なんて言われたって、これじゃ私が得するだけ。
納得が出来るわけがない。
ところが爆豪くんは、盛り付けた料理にスプーンを通し一口。満足そうに若干頬を緩ませていた。
「やっぱり……むぐっ!?」
そして反論しようとした私に、爆豪くんは使っていたスプーンそのまま、私の口に突っ込んだ。
口いっぱいに広がる辛味と、スパイスの香ばしさ。予想していたよりも、かなり美味しくてびっくりした。
それ以上に驚いたのは、爆豪くんが自分の使ったスプーンを、そのまま私の口に突っ込んだこと。
これじゃいわゆる間接キスだ。お昼に私とヤオモモがシェアをしたようなものとは意味が違う。だって、男女だもん。
轟くんとすら、こんなのまだなのに。
そう思うと余計に困惑した。