第1章 爆豪くんがちょっと苦手。
ふわり、甘いニトロの香りがして、私は少しだけ身体を震わせる。
甘い甘い匂い。
教室の席が前後だから全く知らなかったわけじゃないけど、今日は何だかとても気になる。
爆豪くんの個性は、汗にニトロのような成分が含まれているとか、そんな感じだったと思うから、トレーニング後の今は特に匂いが強いのだろう。
不快な匂いではない。むしろ、好きな方。
だけど、その感情が余計にもどかしくて、身を縮こませながら爆豪くんから少し距離をとった。
「ば、爆豪くんは部屋戻らないの?」
「腹減ってんだよ」
「あぁ……そっか」
私は、自分の分の準備は済ませている。
うまり、私も爆豪くんも一人分を用意するわけだから、多分仕上がる時間は同じくらいになるだろう。
せっかく轟くんと夕飯を食べられるからと待っていたのに、苦手な爆豪くんも一緒だなんて。
少し勿体ない気がするけれど、だからと言って爆豪くんに遠慮してもらう訳にもいかないし。
出来るだけ気にならないようにと、キッチンの端に移動して蕎麦を茹で始めた。
そのすぐ近くから、スパイスの効いたいい匂いがする。
爆豪くんは、訓練で遅くなることを見越していたのか、下準備を終えて焼くだけの状態にしていたらしい。
訓練の日でも、それだけのものを用意するなんて凄いな。私はいつも、ランチラッシュ先生が準備したものを加熱するだけで精一杯だ。
それでも、蕎麦を茹でる術だけは覚えてしまったのだけれど。
正直蕎麦よりも、爆豪くんの作るような、スパイス料理が食べたい。
なんて言える訳もなくぼんやりしていたら、鍋からお湯がふきこぼれそうになっていた。