第8章 誕生日祝い
「む!何だそれは!」
「キャロットケーキといいます。お祝いのときはいつも母がこれを焼いていました。」
「この前試食したのですが、とても美味しかったですよ!」
先日試作した経験を活かし、今回は赤いドライフルーツをアイシングの上に飾り付けた。生地にはシナモンを少量混ぜて、ほんの少し風味を感じるようにしてある。包丁で切り分けるとしっとりした生地から良い香りが広がる。皿に乗せて、杏寿郎さんの前に置いた。飲み物には紅茶を。
「月城の母の味というわけか。いただきます!」
フォークで大きなひと口をとってぱくり。いつもよりは味わっているご様子ではあるが…どうでしょう。
「うまい!!これは食べたことのない風味だ!橙の色をしているが、何が入っているんだ!?」
「人参ですよ。」
「なんと!野菜が入った甘味か!体に良さそうだな!」
そう言って杏寿郎さんはケーキを三口ほどで食べきってしまった。もう少し食べたいとのことでしたので、余ると分かっていた一切れをお皿に乗せて渡した。
「あ、そうだ姉上。あの、特別な飲み物とは…?」
「ああ!そうですね、お待ち下さいね。」
帰りに千寿郎さんに言った温かい飲み物を作りに席を立つ。
家から持ってきたとっておきのカカオパウダーと、牛乳をゆっくり温めて混ぜる。気になったのか千寿郎さんが見に来た。
「甘さはいかがでしょう?濃ければ薄くもできますよ。」
スプーンで掬ってひと口飲んでもらうと、甘くて美味しいですと頬を押さえていた。鍋からカップに移して千寿郎さんに渡す。
「熱いのできをつけて。」
「はい!」
ゆっくりと食卓へ運ぶ背についていく。
「千寿郎、それはなんだ?」
「これは…なんですか?姉上。チョコレイトのような香りがしますが。」
「ココアですよ。飲むと気分が落ち着きます。」
千寿郎さんは熱いココアをゆっくりと啜った。ひと口飲んではぁっと一息つく。
「本当だ、なんだかほっとします。」
鬼に襲われた恐怖心がこれで少しでも拭えればいいと思う。今日はいろんなことが起こりすぎた。あぁ、少し頭がくらくらする。千寿郎さんはココアを杏寿郎さんにも飲ませようとカップを渡していた。二人で分かち合う姿にこちらも頬が緩む。