第8章 誕生日祝い
思い返すとまだ怖い。
あの時、杏寿郎さんがもし来なかったらと思うと千寿郎さんを守りきれたかどうか分からない。
お二人が寄り添って笑顔で会話をされているのが心の救いでもあった。
本当によかった…そう思うほど何故か背中が痛んだ。
なんだか暑いし、瞼も重い。
疲れたかしら。
「すみません、私は先に休ませていただきます。」
断りを入れると千寿郎さんがまた心配そうな表情になってしまった。きっと私の傷を気にしている。
「姉上…大丈夫ですか?」
どうかそんな顔をしないでほしい。私は沈みかけている小さなお日様の、柔らかな髪をサラリと撫でた。
「大丈夫ですよ。心配ご無用です。お腹もいっぱいで眠くなってしまいまして。」
そうは言ってもなかなか晴れない。弟たちが落ち込んでいるときにやっていたことをした。
ただぎゅっと抱きしめる。少し驚かれていましたが、千寿郎さんの手が私の背の、傷に触れないように遠慮がちに置かれた。
「おやすみなさい。また明日。」
「…はい。おやすみなさい。」
ゆっくりと深呼吸して、肩の力が抜けていくのを感じた。その横で杏寿郎さんは微笑んでいる。私は静かに片方の手を広げた。二人まとめて抱きしめようと。彼は、はにかみながらもゆっくりと体を寄せると、私の腕の中に入るのではなくて私と千寿郎さんを二人まとめて抱きしめた。力強い腕に体の芯から安心する。どこか幼い頃に感じた父を彷彿とさせた。