第8章 誕生日祝い
「それから、月城。」
「はい。」
いつになく低く落ち着いた声色をなさるので身が引き締まる。
「俺の部屋に薬箱がある。傷によく効く軟膏も入っているから使うといい。」
「…はい。ありがとうございます。」
自分で傷がどうなっているかは分からないが、背中がずっと熱い。破れた着物が張り付いているところもあって、時折動作で引っ張られるととても痛かった。
「あとで医療班を呼ぼう。」
「いえ、そこまでせずとも、切り傷ですから自分でできます。それより他の方の救援を。」
「…わかった。では二人ともまた後で。」
杏寿郎さんは私達の顔を一人ずつ見てから、夜の闇へ再び消えていった。
私は千寿郎さんに背を見られないようにしながら、杏寿郎さんの部屋に行き、薬箱を拝借して借りている部屋へ戻った。
焼けるような痛みはあるが大したことはなさそうと思う。着物を上半身だけ脱いで鏡で見ながら手探りで消毒をした。いざ見るとやはり酷いかもしれない。例の軟膏を塗ってさらしを巻いた。少し痛みが和らいだ気がする。着替えて居間へ戻ると、千寿郎さんが夕餉の準備をしていた。
「お父上様には報告されましたか?」
「あ、姉上。…はい。帰りが遅いと怒られました。それより傷は!?酷い怪我でしたが…」
「驚かせてしまって申し訳ございません。見た目程の痛みはありませんので、心配しないでください。」
「そうですか…良かった…」
千寿郎さんは安堵しても思い出してしまったのか、すぐ不安げな表情に戻ってしまった。
「ほんとうに、何も心配しないでくださいね?」
釘をさすように言うが、それでも気分はなかなか晴れない。怖い思いをさせてしまった、もっと早く帰ればよかった。これは私の過ち。
私も同じような表情になっていたのかもしれない。千寿郎さんは気を遣って笑顔を作ると夕餉の準備を急いだ。
「兄上も一緒に食べられるなら何に…あっ!」
思いついたように声を発する千寿郎さん。大きな焔色の瞳をいつもより大きくして私を見た。
「お祝い、するなら…もしや今日がいいでしょうか…?」
「あぁ…。」
そうですね。確かに丁度良いかもしれない。約束はできないと言っていたが、いつもよりは帰ってきそうな気が私達はしていたのでしょう。
「では、私はケーキを焼きますので千寿郎さんはお食事をお願いします!」
「はい!」