第8章 誕生日祝い
とにかくどこからも触れられることがないように、私は腕を広げて塀と背で千寿郎さんを囲った。
「あ…あぁ…姉上…。」
可哀想に、震えている。どうにか打開策を…!
と、ミネルヴァが空から鬼を目掛けて突進してきた。その鋭い爪で目を抉っていた。
そして次の瞬間には鬼の頸が二つ宙を舞った。あまりの速さに頭が追いつかない。ごろんと頭部が地面に転がってやっと誰かが切ったと分かった。
「兄上ー!」
後ろに隠した千寿郎さんが叫ぶ。鬼の頸の先には杏寿郎さんの姿があった。助かったと、やっと理解した。私は千寿郎さんを背から開放した。
「千寿郎!無事か!どこを怪我した!」
顔や着物に血がついた弟の姿をみて杏寿郎さんは、刀を地面に置いて膝を折り両手で肩や体に触れて確認していた。
「俺は大丈夫です…!」
「しかし血が!」
「姉上が…俺を庇って…」
二人の大きな双眸がこちらを見た。私はほっとしてしまい笑った。
「私は大丈夫ですよ。」
言った途端に痛みが強くなった。人間あまりに必死になると痛みすら感じなくなることを知った。
杏寿郎さんは立ち上がると炎刀についた血を振り落としてから鞘に収めた。それから千寿郎さんを片手で抱きかかえる。
「月城、君に感謝する!身を挺して守ってくれてありがとう!」
杏寿郎さんが来なかったらどうなっていたか分からない。それを考えるととても怖い。私は決して感謝されることはしていない。
「杏寿郎さんが来てくださったおかけで助かりました。ありがとうございます。」
私は深く頭を下げた。少し目眩がする。
杏寿郎さんは私に歩み寄ると背中を見ようとしてきたので、なんとなく隠すように立ち回った。
「怪我をしたのだろう?見せなさい!」
「大丈夫です!」
「大丈夫ではない!」
「大丈夫です!着物が破れて恥ずかしいのですから、見ないでください!」
「むぅ!」
渋々諦めていただき、それから煉獄家の門まで送ってもらった。
「俺は他の鬼がいないか見回ってくる。」
「兄上…!今日は帰ってきますか?」
「うむ…悪いが約束はできない。」
千寿郎さんは肩を落とすが、その上に大きな手がぽんと置かれた。
「なるべく戻るように善処する!夕餉の準備を頼むぞ!」
そう聞くなり千寿郎さんの機嫌は一気によくなって小さなお日様がやってきた。