第8章 誕生日祝い
手を繋ぎ、家までの道を早足で歩いた。だが、もうすぐ門に着くと言う時だった。
どこからか女性の悲鳴が聞こえた。咄嗟に足を止めて周りを見渡す。一気に鼓動が早まる。千寿郎さんに危険が迫っているとしたらどうしようと。
続いて男性の悲鳴があがり、道の向こうから数人の大人が逃げるように走ってきた。千寿郎さんにぶつからないように、背の後ろに隠し、様子を見ていると、暗闇からふらふらと何か歩いてきた。現れたのは鬼だった。手が大きく、爪が鋭い。今さっき襲った人のものと思われる腕を食べながら歩いてくる。
後ろの千寿郎さんは震えていた。私の背中越しに見てしまったか。どうしてこんな時に、日輪刀もないなんて!
「ゔゔー!」
鬼は唸り声をあげながらまだ腕を食べている。あれがなくなれば次は私達だ。
「千寿郎さん、聞いてください。」
私は鬼から目を離すことなく伝える。
「私が鬼の注意を引きます。その隙に家まで走って、お父上様に鬼が出たことを伝えるのです。」
「で、でも!姉上を置いてはいけません!できないです俺には…」
「やるのです。振り返らずに走るのですよ。」
鬼は骨だけになった腕を道端に投げ捨てて、こちらに向かってきた。背中に捕まる小さな手を振りほどいて私も鬼の方へ走る。振り上げた大きな手に血のついた爪が鈍く光る。その手から私までの距離に数字が見える。問題ない。爪の攻撃を躱し、腕を掴んで全集中の呼吸。鬼を塀に向かって投げ飛ばした。
今だ、でも千寿郎さんは動けないでいる。
「行きなさい!!」
私は今までにないくらい声を張り上げた。それを合図に千寿郎さんは門に向かって走り出す。私も鬼の背を踏みつけ両腕を背中にやって押さえつけた。もう少し、あと少し。だがこの鬼から全く同じ姿の鬼がもう一体現れた。分身したのだ。あれは幻か、それとも実体がある?実体があれば千寿郎さんが傷つけられてしまう。分身した鬼は高く飛んで千寿郎さんの前に立ちはだかった。いけない。
私は押さえていた鬼を放って、千寿郎さんの方へ走った。あちらは爪を立てて襲おうとしている。
全集中の呼吸。
足に集中して、瞬足で間に入った。しかし攻撃を防ぐ物が何もない。千寿郎さんを懐に仕まうように抱き締めた。背中に鋭い痛みがあったが、直ぐに感じなくなった。反対側からも鬼はくる。挟み撃ち状態。