第1章 異人の隊士
「ま、参ります…!」
月城は大きく深呼吸をしてから踏み出した。
俺の構える木刀に対して当ててくる。それを弾き返した。
「甘い!俺を鬼と思え!首をとるつもりでこい!」
「え…!ですがそんなことをしたら…」
「ワハハッ!心配無用!俺の首はそう簡単にとれない!今の君では間違いなく無理だ。だから本気できなさい!」
「分かりました…!」
月城は木刀を構え直した。また目の奥の冷たさを感じる。これは何なのだろう。
そして構えたまま動かない。
「どうした?かかってこないならこちらから行くぞ!」
俺は素早く間合い入って木刀を振り下ろす。月城は驚きはしたものの、木刀を横に持ち替えて受け止めた。女子の場合は受け止めるのは危険だ。力の大きさで言えば男子に劣るのは仕方がない。
月城もそれは理解しているのだろう、するりと全身を使って力を流した。
そして独特の足運びで確実に俺に接近してこようとする。
規則性がなく予測し難い。
確実に首をとるために狙ってきている。俺は防ぐことはできるが同じ階級の隊士ではこの動きを捉えられないだろう。
それに、俺が攻めに転じるとそれに反応して足運びも変わる。早い。だが。
「呼吸を意識しろ!」
やはり呼吸が途中で途切れる。何度か声をかけて集中させないといけなかった。
結局、1000回は終わらなかった。
その前に月城が立てなくなった。稽古をつけてやる以上、体調に気をつけて指導しなければならない。
これ以上は厳しいと判断した。
途中から見学していた千寿郎は月城に水を差し出した。
「お疲れ様です。どうぞ。」
「ハァ…ハアッ…ど…も。あり、とう。」
息が切れていてうまく言葉にできていなかったが、なんとか微笑みながら湯呑を受け取っていた。
ごくごくと喉を鳴らしながらそれを飲み干していた。
「月城。もっと大きく呼吸するんだ。楽になれる。」
「は…はい!」
月城は立ち上がろうとしたが体勢を崩し、片膝をついてしまった。呼吸が苦しそうだ。
「大丈夫か!」
隣に膝をついて顔を覗き込んだ。胸を抑えて短い呼吸をしている。それに少し青ざめているな。
「も、申し訳、ございません…せっかく、教えて…ハァ…いただいている、のに」