第8章 誕生日祝い
自然と抱き合い、互いの頬に口を寄せた。
「元気にしているかい?」
体を離して、彼は私を足元からよくと確認した。
「はい、元気ですよ。貴方も元気そうでなによりです。」
彼はにこりと笑うと私の後ろに立ち尽くす千寿郎さんに目を向けた。剣の師匠の弟君であると紹介した。
「千寿郎さん、彼は私の友人でイグナーツといいます。」
「れ、煉獄千寿郎といいます!」
千寿郎さんは緊張のせいか強張った表情だった。イグナーツは笑いながら握手を求め、よろしくと返していた。戸惑いながら千寿郎さんも手を出した。
「あの、姉上。彼はなんて言っていますか?」
私は自分が聞き慣れているからと千寿郎さんにも同じように聞こえているとばかり思ってしまった。
そうだ、イグナーツは日本語は得意ではない。私と話すときは大抵母国語だ。
「よろしく、と言っていますよ。」
あぁなるほどと千寿郎さんは頷いてようやく笑顔を返した。
イグナーツは、彼も私と同じハーフかと聞いてきた。焔色の髪が珍しいのは海外でも同じだからだ。彼は生粋の日本人であると伝えると驚いていた。そしてなんの前触れもなく、笑いながら千寿郎さんの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「わわっ!」
千寿郎さんは驚いていたが照れているようでもあった。
「あまりからかってはいけませんよイグナーツ。」
「いやぁ、弟の幼い頃を思い出して懐かしくなったよ。」
彼の弟はもう私と同じ年頃だが、暫く会っていないと思い出すのは何故か幼い頃だという。それは分かる気がする。
千寿郎さんは私とイグナーツを交互に見上げて、どんな会話をしているのか必死に聞こうとしていた。私は都度、イグナーツの言葉を翻訳して話した。
「あぁ、そうだ!リアネ、君に渡そうと思ったんだ…」
言いながらイグナーツは自分の作業着についた沢山のポケットを一つずつ確認した。
すると胸ポケットから鍵が一つ出てきた。それを見て鼓動が早まった。私はずっとそれを探していたからだ。
「君のお父さんが英国の書斎に置いてきた鍵をようやく引き取りに行けたんだ!これしかなかったから、きっと合っていると思うよ。」
私はその鍵を受け取って眺めた。これに関わる思い出は良いものではない。痛みと、罵詈雑言。それと遺言。探していたのにいざ手に入ると怖かった。
「姉上…大丈夫ですか?」