第8章 誕生日祝い
食事を終えたら今度は商店街へ。今日も多くの店がやっていて行き交う人も多い。磯の香りが風と共にやってきて、遠くで船の汽笛も聞こえた。
「凄い!賑わっていますね。」
「いつもこのような感じですよ。」
商人も多く出入りするのでとにかく人が多い。日本人も外国人も大勢いた。
「混み合っていますので、手を繋ぎますよ。私から離れぬようにね。」
千寿郎さんのまだ小さな手を握り、グイグイと人をかき分けて進んだ。時々、白い肌の外国人から道を尋ねられ、その都度外国語で話し返した。千寿郎さんが私に尊敬の眼差しをキラキラと送ってこられるのでとても眩しかった。
「海外の食材はあの店です。行きましょう。」
私は何度か行ったことがある店を指さして、訪問した。
色鮮かな瓶や缶に食材が入っていてそれが所狭しと並んでいる。私の目当てのドライフルーツもあった。ぶどうと苺のドライフルーツにしましょう。これなら生地に混ぜても美味しい。それとシナモンも。
千寿郎さんも興味深く店の中をよく見ていた。紅茶や焼き菓子の缶がとても豪華に装飾されていることに感動していたので、私は一番とくと眺めていた焼き菓子を購入して渡した。
「ありがとうございます!姉上!」
「いいのですよ。せっかく来たのですから、欲しいものがあれば仰ってください。」
お金は自分で払うと、最初千寿郎さんは申していましたが、そこをどうにか断った。出世払いで結構と伝えて渋々でしたが。
それから、海外文学も集まる本屋により英字の絵本と翻訳の辞書を買い、異文化の雑貨屋や食器屋を眺め、合間には屋台で軽食を食べた。まるでお祭りのようです、と千寿郎さんは終始楽しそう。杏寿郎さんもそんなこと言っていたわね。そして最後に港に出て大きな貿易船を見上げた。
「わぁ〜…。大きい…!こんなに大きい船なのですね!」
海の向こうの国への架け橋となるこの船たち。私は幼い頃から父に連れられ眺めていたので、港に来るとどこか落ち着く気がした。
何隻も並ぶ船をゆっくりと歩きながら眺めた。と、船の上から私の名を呼びながら手を振る男性が。彼は主に西洋に渡っている船乗りで馴染みの人の一人だ。
「こんにちはー!ご無沙汰しておりますー!」
「今降りるから待って!」
そう言って彼は急いで船から降りてきて、手を広げて歩みよってきたので同じようにする。