第8章 誕生日祝い
もうしばらくは稽古に集中ですね。刀を暫く握っていないのでちゃんと振れるか心配だけれど。
手紙を懐に入れて再び走り込みを再開。あと三周はしよう。
昼には煉獄家へ戻り、食事を用意してお父上様の部屋の前に置いた。話すことはないがお膳はいつも空になった。
私も昼餉を簡単にとって午後は素振りや技の練習をした。肺を鍛え、型を体に覚えさせるにはひたすらに繰り返すしかない。分かってはいるけれど、一人の鍛錬は辛い。早く千寿郎さんに帰ってきてほしい。今ごろ午後の授業でしょうか。
その時ふと、朝の会話を思い出した。
私は…一人でケーキを焼いたことはないけど、本当に作れるのかしら。そう考えたら居ても立っても居られなくなり、汗を拭いて、服も着替えて買い物へ出た。
小麦粉と卵にふくらし粉、シナモンが少し香るのが私は好きだけど手に入るかしら。近くの商店街を練り歩いて探す。ついでに素敵な簪の並ぶ雑貨屋も見た。一見綺麗に陳列されているようだが、私にはそれは無秩序だった。だから無心で番号順に並べた。どの商品にも番号は振られていない。ただ私に見えるだけ。それでも一度見てしまったならとても気になる。実はこっそり煉獄家の食器棚の皿や小鉢の順も変えた。棚の整理をしていると思われていたが本当はそうではない。順不同に並んで見えることが不快だっただけ。私は簪を並べ終えると結局そこでは買わずに、目的の店を探した。
その後、やっと見つけた商店で粉物は手に入れた。卵は帰りに買おう。でもやはりシナモンはないなあ。家の近くにならあるかもしれない。自分の家の側なら、珍しいものも外国人向けに出回っている。明日一度帰ろうかな…。そう考えていると、向かいから姉上!と大きな声で呼ぶ千寿郎さんが駆け寄ってきた。学校が終わったのですね。
「おかえりなさい、千寿郎さん。」
「ただいま戻りました。姉上はお買い物ですか?」
「はい、杏寿郎さんに焼くケーキを練習しておこうかと思いまして。作り方は覚えているものの、いつも母が焼いてくれたので、手順もおさらいしたくて。」
「そうだったのですね。俺にもぜひ手伝わせてください!」
「では一緒に作りましょう。」
まずはあるもので作ろうと、卵を買ってから私達は家へ帰り早速準備をした。粉を測っては混ぜ、卵を割って一部は白身と分け、砂糖とよく混ぜて、すりおろした人参と油を少しずつ混ぜる。