第8章 誕生日祝い
「え、兄上様のお誕生日なのですか?」
食事を取りながら話題は杏寿郎さんの誕生日について。五月十日であるとか。
「はい。昨年はお祝いできなかったので、今年は何かお祝いをしたいのですが…兄上はいつ帰ってくるか分からないのでどうしようかと。」
「お帰りになる日を手紙で聞いてみてはどうでしょう?」
「それだと、帰る前日に返事を書くのか、手紙と一緒に帰ってきてしまうのです。」
ああ…。それはなんだか納得です。
「では、いつ戻られてもいいように準備をしておかないとですね。」
「はい。姉上は食事など何がよいと思いますか?やっぱり…」
さつまいもご飯でしょうか、と私達は声を揃えた。ですよね、まで揃った。
「さつまいもご飯とさつまいものお味噌汁があれば、幸せなのではないでしょうか。」
「それはそうなのですが…もう少し何か祝いの雰囲気を…。姉上の家では誕生日とはどのように過ごしたのですか?」
私は…。もう随分前の記憶をどうにか呼び起こす。
確か母がケーキを焼いてくれて、その上に蝋燭を立ててお祈りをして、でも弟がいつも火を吹き消してしまっていたので、蝋燭の役割はよく知らなかった。
「ケーキですか。なんだか特別な雰囲気が出せそうですね。」
「それなら、母の作るケーキを覚えていますので、私が焼きましょう。」
「はい!では俺は兄上の好物をたくさん用意します!」
千寿郎さんは朗らかに笑った。その楽しげな姿に私はいつも癒やされている。
「さあ、そろそろ急いで食べないと、学校に遅れますよ。」
「わっ!もうこんな時間!?」
千寿郎さんは慌ててご飯と味噌汁をかきこみ、食べ終わるとごちそう様でしたと言いながら食器を炊事場へ置いた。
それから居間の隅に置いていた荷物を肩にかける。
「すみません、姉上!後片付けをお願いできますか!」
「はい、もちろん。気をつけていってらっしゃいませ。」
「はい!行って参ります!!」
廊下をドタドタと走る音が段々と小さくなり、玄関の戸が開いて閉まる音がした。あっという間に静か。さて、私は片付けて、洗濯と、掃除をしなくては。
家事を終えてから街の周りの走り込みをしていた時、手紙が届いた。足を止めて開いてみると、担当の刀鍛冶からだった。
『良い作品を送りたいのでもう数日猶予をください』と、とんぼ玉のついた髪結い紐がついていた。