第7章 なんとなくの正体
その日の晩、任務に出る前に夕餉をとった。
幾分気持ちが楽になったのか、月城は自身の好物だというすき焼きを振る舞ってくれた。
鉄鍋の中で煮えたぎる肉と野菜。
「おお!いい香りだな!腹の虫が鳴りそうだ!」
「関西風、でしたっけ?」
千寿郎も食卓に前のめりになり鍋を覗いていた。
月城は炊きたての米を茶碗によそいながら、関西風すき焼きについて説明した。さらに驚いたのは父が現れたことだ。昼間のことがあるので少々気まずいが、食事の席で父を見るのは何年ぶりだろう。
「匂いに釣られましたね?」
月城は昼間の事を気にする素振りもなく父に問う。照れくさそうに父は首をかいた。
「飯、早くしろ。」
「はい、どうぞ。」
態度は素っ気ないが、父なりに申し訳なさもあるのだ。それが月城にも伝わっているのが俺は嬉しい。
「では!いただきます!!」
食事の挨拶を交わし、直後は肉の争奪戦となった。
俺が次々に食べるので月城は肉を足すのに忙しかった。
「千寿郎さん、もっと食べてくださいね。」
「はい、ありがとうございます!」
俺に取られる前に千寿郎の分は月城がよそった。
「うーん!うまい!!」
「静かに食え。」
父の注意も他所に俺は次々具材を皿によそう。 焼き豆腐、肉、白菜、椎茸。ん?これはさつまいもか!?
「どうでしょう?煮えていますか?」
輪切りのさつまいもを皿によそってから箸で崩すと、少しの力で割ることができた。一口食べれば出汁のきいた汁が染みていてうまい!
「わっしょい!!」
さつまいもはいつ食べてもうまいな!醤油と出汁の塩っぱさと、後からくる甘さが絶妙だ!
「千寿郎さんもさつまいも食べます?お豆腐も染みていて美味しいですよ?」
「はい、ほしいです!」
「むう、月城!俺の分もまだあるか?」
「まだありますから、焦らず食べてください。」
「おい、居候!飯が足りんぞ!」
「はい、お待ち下さいね。」
月城は嫌な顔一つせず、俺達の言うことにひとつひとつ丁寧に応じてくれた。
「杏寿郎さん、ご飯のおかわりはいかがですか?」
そう言って差し出された手と柔らかな微笑みが彼の人を思い出させる。
「うむ!頼む!大盛りでいいぞ!」
これほど楽しい食事は久しぶりだった。