第7章 なんとなくの正体
聞いて一瞬思考が停止した。今のはどういう意味だ?
「つまり俺のことも数字に見えているのか?」
「いえ、そうではありません。」
むう、わからん。さっぱりわからん!
「もう少し噛み砕いて説明してもらえるか?」
月城はゆっくり立ち上がると木刀の先を地面に向けた。
「ここに書いてもよいですか?」
「うむ!」
月城は木刀の先を使って書き始めた。真ん中に人の型を描き、これが例えば鬼だとすると、その周りに数字が一から五まで並んでいて、四と五は頸を囲むように書いてある。
「私にはこのように見えているので、こうやって切っているのです。」
と、一から五までをすっとなぞるように線を描いた。
「なるほど!!それで刀の軌道が正確なのか!では動きを先読みするのはどういう仕組みなんだ?」
月城はまた書いて説明してくれた。
戦いの場において、常に相手の周りに数字が並んでおり、一から順に数字を辿るように動くのだという。それが、相手がその動きをとるほんの一瞬より早く見えるので、先を読んだ行動や体勢がとれるらしい。これは、修行中に身についたものだそうだ。
「他にも、動きに対しては小数字、頸を切る軌道は大数字、といったように形が違って見えます。色がついたりすることもあります。」
「原理は分かった。月城のそれは生まれつきか?」
「物心ついた時には当たり前でしたので、幼い頃はみんな見えるものと思っていました。ですが…」
「そうではなかったということか。」
月城は地面に書いた絵を足で払って消した。そのまま地面をじっと見つめている。
俺は元気づけるつもりで彼女の肩を軽く叩いた。
「すごい才能だな!やはり、見込んだ通りだ!約束を破ることになると怖かっただろう。誰にも言えずに苦しかっただろう。勇気を出して打ち明けてくれてありがとう!!」
月城はその青い瞳に大粒の涙を溜めていた。ゆっくりと瞼を閉じると、それが頬を伝う。涙を流すときも彼女は静かだった。千寿郎もそうだが、辛く悲しい事があっても我慢をして鼓舞して立ち上がり続けたからだろう。
「…ありがとうございます。聞いてくださって、ありがとうございます。」
涙が溢れる度に指で拭う月城の肩を抱き寄せた。もう俺にできることはこのぐらいしかなかった。