第7章 なんとなくの正体
月城の勘を頼る時、俺も何か見えるかと聞くことはあったが、実際に見えているとは思っていなかった。妖かしか何か、というわけでもないと思うが。
「月城、父上に言ったことは本当か?」
彼女の顔を覗きこもうにも背けてしまう。嘘なのだ。
「俺は、あれが嘘でも本当でもどちらでも構わない。嘘なのだとしたら、理由があってのことだろう?ただ、月城が俺たちには見えない何かを利用して鬼と戦うのだとしたら、それを知ることで俺からも何か戦略を与えられるかもしれない。確かではないがな!もし話せる日が来たならその時は…」
「約束したのです!お母様と!」
月城が思い切ったように声を上げた。その言葉は俺にもすんなりと入ってくる。
「お母様が、これは人に話してはいけないと、仰ったのです。声に出してはならないと、約束したのです…。」
俺が母と交わした約束とはまた違う。俺には月城が約束に縛り付けられているように見えた。それでも亡き母との大切な約束だとしたら、これ以上は聞くまい。
「月城が話したいと思ったらでいい。俺も母上との約束がある故、気持ちは分かる。」
月城はその白い拳をぎゅっと握っていた。やはり、この約束は彼女を苦しめている。でなければこれほど辛い顔をするだろうか。
「俺は、たとえ月城に人ならざる何かが見えようとも、態度を変えたりはしない!どんな君でも君に変わりはない。だから何も心配いらないぞ!」
俺にできる精一杯の慰めのつもりだった。月城が握った拳はずっと震えている。その手を握ろうとも思ったが、返って失礼になってはいけないと思い、肩に手を置いた。月城は静かに呼吸してゆっくり顔を上げた。
「私のような人はあまりいないから、だから人に話してはいけないと言われてきました。気味悪がられ、ただでさえ顔も背格好も西洋人寄りなので、いじめられたりしないようにと、母なりの優しさだったと思っています。」
俺は静かに彼女が続けるのを待った。
「私は…。」
彼女は拳を解いて膝に乗せるが、震えが止まずまた握った。いたたまれず、その手に自分の手を重ねて握った。過去の約束にここまで囚われている彼女を可哀想だとも思った。
「私は、あらゆるものが数字に見えるのです…」